北九州殺人放火事件
北九州市八幡西区で04年3月、被害者男性(当時58歳)方が全焼し、焼け跡から被害者の遺体が見つかった事件で、福岡地裁小倉支部は5日、殺人や非現住建造物等放火などの罪に問われた60歳妹被告に対し、殺人と放火罪については無罪、威力業務妨害と窃盗罪については懲役1年6月、執行猶予3年(求刑・懲役18年)を言い渡した。
裁判長は、検察側が立証の柱とした拘置中の同房25歳女性への犯行告白の証拠能力を否定した上で「犯人と断ずるだけの確たる心証を形成するには至らなかった」と述べた。
事件は物証に乏しく、「犯行を告白された」とする同房女性の証言の証拠能力と信用性が焦点となった。
検察側は、覚せい剤取締法違反容疑などで拘置中の同房女性に被告が「本当は2回刺した」「首の辺りだったと思う」などと告白した後に、保存してあった首の動脈に刺し傷が確認されたとして、これが「秘密の暴露」に当たると主張。
被告は「告白自体していない」と起訴事実を否認していた。
裁判長は「同房者によって供述を得ようとする捜査手法であり、任意性は認められない」と判断。
「虚偽供述を誘発しかねない不当な方法で、適正手続き確保のためにも証拠能力は肯定できない」と捜査の問題点を指摘した。
さらに「意図的に被告と女性を同房にしたと言え、代用監獄への身柄拘束を捜査に利用したとのそしりを免れない」と批判した。
検察側が死因としていた首の刺し傷を「生前に受けた外傷と認めるには疑いが残る」と退け「秘密の暴露とは言えない」と判断した。
その上で「同房女性への犯行告白には信用性がない」とした。凶器や着火道具など具体的な物証がないことと併せ「検察側の立証は十分とは言えない」と結論付けた。
被告は04年3月23日ごろ、被害者宅で被害者の右首と左胸を刃物で刺して殺害し、翌日灯油で放火したとして起訴された。
事件後の同年5月、被害者の貯金口座から現金を引き出した窃盗容疑で逮捕されて以降、一貫して容疑そのものを否認していた。
弁護側は、同房者がスパイとなって自白を勧めた松山事件(84年に再審無罪)を引き合いに「自白強要禁止に違反する違法捜査だ」と冤罪を訴えていた。
04年3月24日夕、被害者方が全焼したのを発端に発覚。福岡県警は、火事の翌日に被害者の貯金通帳から500万円を引き出した窃盗容疑で同5月、実妹の被告を逮捕。
さらに、被害者の妻が経営する学習塾に02年、壁を設けて出入りを不自由にし、業務を妨害した威力業務妨害容疑で同7月に逮捕した。
拘置中の同房女性への「犯行告白」証言をもとに、被告は同10月に殺人、非現住建造物等放火容疑で逮捕されたが、捜査段階から一貫して容疑を否認している。
一方、「犯行告白」を受けたとする女性は、二つの警察署の留置場で片岸被告と同房となった。最初は窃盗容疑で拘置中の北九州水上署、2度目は覚せい剤事件で再逮捕されて八幡西署に拘置された。公判での証言などでは、最初の房で片岸被告から「関与を告白された」と捜査員に供述。2度目の房内では「殺したことを認めます」とのメモも書かせていた。
検察側は公判などで「捜査員は、女性に調べに応じても便宜を図れないことを告げていたし、女性本人の事件捜査を優先させて移監した」などと主張。
弁護側は「2度目に一緒にいた74日間、調べのほとんどは被告関係のことで、自らの事件の調べは8日間にすぎない」などと反論していた。
04年
3/24 被害者方が全焼し居間付近で遺体見つかる
3/25 死因が特定されず県警が自他殺両面からの捜査を発表
5/23 窃盗容疑で逮捕
6/13 窃盗罪で起訴
7/1 威力業務妨害容疑で逮捕
7/9 窃盗罪で初公判。弁護側が別件逮捕による公訴権の乱用として公訴棄却申し立て
7/22 威力業務妨害罪で起訴
8/13 窃盗罪について無罪を主張
9/24 威力業務妨害罪も無罪主張
10/03 殺人容疑で逮捕
10/25 殺人罪で起訴。非現住建造物等放火容疑で逮捕
11/16 非現住建造物等放火罪で起訴
12/20 殺人罪なども無罪主張。検察側が同房女性を証人申請。弁護側は異議
2005年
01/28 地裁支部が同房女性を証人として採用する決定。弁護側は決定取り消しを求める
1/31 同房女性が検察側証人として初出廷
3/23 県警捜査員が証人出廷。違法捜査との弁護側主張に「適正な捜査」と反論
6/27 同房女性が「警察側から『事実を聞いてくれ』と頼まれていない」と証言
2006年
7/24 被告人質問で出火当時自宅にいたとアリバイを主張
10/16 被告人質問で「兄を殺したと話したことは一度もない」と犯行告白を否定
2007年
10/10 検察側が懲役18年を求刑
11/12 弁護側最終弁論。無罪を主張し結審
2008年
03/05 地裁支部が殺人と非現住建造物放火罪については無罪の判決。他の2事件で懲役1年6月、執行猶予3年とした
さて、これも酷い事件だな。
もし、留置場に拘留される事になっても、同じ留置場にいる人間を信用してはいけないと言う事なんだね。
無実であるなら、どんな理由でも犯行を認めるような言動やメモは書いてはいけない。
それが知らぬ間に警察に渡ってしまう事があるかもしれないからね。
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コメント
公判で無罪を主張するなら、供述調書(検事調書含む)に署名や指印をしてはならない。これらは、被疑者の任意で行うもの。もし、署名指印に応じると、調書に書いてある事を認める事になり、公判はその調書を基に進められるので、弁護人が無罪を立証する事はかなり難しい。
話しは変わるが、大都市では痴漢冤罪が多いとの事、このケースで身柄を拘束されたら、速やかに弁護士を要求して欲しい。
因みに、署名や指印をするのは弁解調書のみ。
投稿: ひろ | 2008/03/13 10:12