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2012/07/31

反省の為+4年?

大阪市平野区の自宅で昨年7月、姉=当時(46)=を刺殺したとして、殺人罪に問われた無職、男性被告(42)に対する裁判員裁判の判決が7月30日、大阪地裁であった。

裁判長は、犯行の背景に広汎性発達障害の一種、アスペルガー症候群の影響があったと認定した上で「家族が同居を望んでいないため障害に対応できる受け皿が社会になく、再犯の恐れが強く心配される。許される限り長期間、刑務所に収容することが社会秩序の維持に資する」として、検察側の懲役16年の求刑を上回る同20年を言い渡したとの事。

裁判長は判決理由で「計画的で執拗かつ残酷な犯行。アスペルガー症候群の影響は量刑上、大きく考慮すべきではない」と指摘したらしい。
その上で「十分な反省がないまま社会に復帰すれば、同様の犯行に及ぶ心配がある。刑務所で内省を深めさせる必要がある」と述べ、殺人罪の有期刑上限が相当としたらしい。

判決によると、被告は小学5年のころから約30年間引きこもり状態で、生活の面倒をみていた姉に逆恨みを募らせ殺害を決意したらしい。
昨年7月25日、市営住宅の自室を訪れた姉の腹などを包丁で何度も刺し、死亡させたとの事。

こんな判決なんですが・・・
もし、被告人がアスペルガー症候群でない、普通の人なら私もこの判決は賛同したと思います。

ただ、今回は被告人がアスペルガー症候群である事をどう考えるのか?と言う所なんですよね。
裁判長は
「十分な反省がないまま社会に復帰すれば、同様の犯行に及ぶ心配がある。刑務所で内省を深めさせる必要がある」

「反省させないと、再犯するだろう、だから、刑務所で反省させる」と言う事だと思うのですが、果たしてこの被告人は刑務所の中にいるだけで反省するのだろうか?と言うのが素朴な疑問なわけです。

そもそも、小学5年の頃から引きこもりと言うのがこれもまた、疑問ですよね。
アスペルガー症候群は通常、知能には問題が無いはずです。だから学校の成績が悪かったとは思えないのです。

報道されていないので憶測ですが、「いじめ」的な事、あるいはアスペルガー症候群自体の症状や特徴でからかわれたりしたのではないか?と憶測しています。

問題はその後も、家族は何もしなかったのか?と言うのが疑問な点で、知能に問題が無いのでちゃんと訓練をすれば、普通の社会生活ができるぐらいにはなると思います。

それなのに、小学5年の時から引きこもりって、どういう事なのかな?
これもまた憶測でしかないけど、この時、既にアスペルガー症候群と言う診断がされており、家族はそれが理由で引きこもりのままにしてしまったのではないか?

引きこもりは、普通に引きこもっているので、社会との接点がほぼ、家族のみに限定されますよね。そうすると、自分の境遇に対する不満をぶつける相手は必然的に家族になると思います。

その延長線上で起きた事件なのかな?と思うのですが・・・
同情できる点はあるけれども、しかし、献身的に面倒を見てくれた家族を逆恨みから殺害してしまった罪は償わなければならないと思います。

なので、懲役16年はしかたが無いけれど、アスペルガー症候群の被告を反省させる為に4年多くしましたと言うのには違和感があります。

本当に刑務所に入れておくだけで「反省」するなら、普通の人でも再犯はしないでしょう。
ですが、現実は再犯する人が沢山いますよね?

しかも、アスペルガー症候群である被告の場合には更に、別のケアが必要なのではないのか?と言うのが私の意見です。

結局、たとえ4年多く服役しても、社会に適応できなければ、また、刑務所に戻るしかできないじゃないですか?
刑務所の中でどんな生活をするか分かりませんが、出所した場合に備えた教育や訓練ができたら、再犯する可能性をもっと下げられるかもしれませんね。

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コメント

 日本の福祉の貧困は酷いもので、天下りのために非常に細分化され、穴だらけ。被告もその穴から完全に零れ落ちる人です。
 そもそもアスペルガー症候群は知的障害でも身体障害でもない情緒障害なので、正面から受け入れるところがないんです。

 もし被告が懲役16年で出所すると56歳。ところが懲役20年ならば60歳過ぎ。前者では生活保護を受けられない可能性が高いのですが、後者ならば確実に受けられます。その結果、住まいが確保でき、医療も無償で受けられ、彼の生活を定期的に監督する人もできます。
 つまり、身よりも収入もない彼の生活などを保障する福祉行政の網に引っ掛かるまで、刑務所を「保護施設」として使おうとする発想です。
 ところが、刑務所は少なくとも名目上そのような施設ではないし、刑を言い渡す理由としても存在しないので、あえて刑事手続き上可能な言い回しで表現したに過ぎません。
 従って、刑が重過ぎるというのは木を見て森を見ない意見であり、むしろ「それでは、判事を犯せば却って生活が保障されるとして、犯罪を誘発するのでは」という批判の方が妥当でしょう。
 温情判決だと思います。逆にそういうことを何も考えない検察の求刑の方が冷たいですね。

投稿: あすな郎 | 2012/08/01 03:56

あすな朗さん、こんにちは
なるほど、出所時の年齢まで考えていませんでした。
なかなかの大岡裁きと言う事でしたか。
私の考えが浅かったようです。
ただ、服役中の20年間でアスペルガー症候群に対してのケアがされないと(今までも適切なケアがされていないように見受けられるので)出所後に生活保護を受けても対人関係(コミュニケーション能力)など不安が残りますよね。
そのあたりも、服役中にケアできると良いのですが・・・
出所して生活保護を受けて生活はできるけど、それだけで幸せな人生になるのか、後は本人次第と言う事なんでしょうね。

投稿: ASKA | 2012/08/01 11:59

アスペルガーは減刑上、大きく考慮すべきでないと言いながら、アスペルガーは家族の受け入れがないと再犯の恐れ?

何て矛盾した話なんだとビックリしました。でも、あすな郎さんのコメで納得。こんな変な理由はこじつけで、そういうのっていかにもありそう。

投稿: りさりん | 2012/08/01 23:15

罪に問われた障害者を支援する「共生社会を創る愛の基金」(東京)は3日、「認識に重大な誤りがある」と指摘する声明を発表した。

同症候群は、生まれつきの脳機能障害のため感情のコントロールなどが苦手とされるが、犯罪などの反社会的行動には直接結びつかないとされる。声明は、発達障害には公的施設の支援があると指摘し、「社会内に障害に対応できる受け皿がない」との判示に反論。社会秩序の維持を念頭に長期刑を選択した点には、「隔離の論理だけがまかり通っている」と訴えた。

とこんな話も出来たようです。
「発達障害には公的施設の支援がある」と言う事なんですが、この被告人は引きこもり中、支援は受けていたのかな?と言うのが知りたいですね。

投稿: ASKA | 2012/08/04 12:26

最近、小中学校では発達障害の児童へのケアがなされ始めていますが、高校、大学となるとケアがなく不安という保護者の話を聞きます。大人になってからは尚更、受け皿ってないように思うんですが、何かあるのでしょうかね。
自閉症も高機能自閉症の場合には家族のケアのもと家庭で生活 することは可能な場合が殆どですが、働きに社会に出るとなると、なかなか厳しいものですよね。軽度だと理解されない事も多いですしね…。
高い能力を発揮する機会や環境にたまたま恵まれると、すごい能力を生かせるみたいですが、そういう方は一握りでしょうね。

投稿: りさりん | 2012/08/05 00:27

アスペルガーといっても様々と思います、統合失調症と誤診されるケースも多い
そうでサイコパスと呼ばれる殺人鬼も人格障害のもっとも悪い出方の一群で
これも発達障害の仲間ではないでしょうか。

この被告人は極めて凶暴でとありますから裁判での精神鑑定の採用はどの様な
事だったのでしょうかね。 

知り合いのアスペルガーの若い女性は幸せに成りたいと言う気持ちが強くとても
優しい子で、様々方の助言は本人からしてみたら耳の痛い事だったでしょうが、

本人が何でも指摘して下さいと言い又素直に聞き入れ実行して
目出度く結婚して可愛い女のお子さんを産みました。

投稿: グリーン | 2012/08/10 01:22

1審・大阪地裁の裁判員裁判で広汎性発達障害の「アスペルガー症候群」を理由に求刑を4年上回る懲役20年を言い渡された無職男性被告(42)(大阪市平野区)の控訴審初公判が1月29日、大阪高裁であった。

弁護側は「障害を重罰化の理由としたのは偏見による誤り」などとして1審判決の破棄を求め、即日結審した。判決は2月26日。

さて、高裁の判断に注目です。

投稿: ASKA | 2013/01/30 11:47

大阪高裁(松尾昭一裁判長)は2月26日、懲役20年とした1審・大阪地裁判決を破棄し、懲役14年を言い渡した。裁判員裁判の1審は、被告の発達障害を理由に検察側の求刑(懲役16年)を上回る量刑判断をしたが、裁判長は「1審は障害の影響を正当に評価しておらず、不当に重い」と指摘したらしい。

昨年7月の1審判決は、広汎(こうはん)性発達障害のアスペルガー症候群である被告に対応できる受け皿が社会にないと指摘した上で、「反省が不十分で再犯の恐れがある。許される限り長期間、刑務所で内省を深めさせることが社会秩序のためになる」とした。

これに対し、裁判長は
1)反省の態度を示せないのは同症候群が影響し、再犯可能性を推認させるほど反省が乏しいとはいえない
2)都道府県の地域生活定着支援センターなどがあり、社会内に受け皿がないとはいえない

などと1審の判断を批判したらしい。

さらに「適切な支援がないまま約30年も引きこもり、姉の言動を嫌がらせと受け止めて殺害を決意した経緯や動機には、被告のみを責められないアスペルガー症候群が影響している」と述べ、量刑判断にあたって被告に有利に考慮すべきだと指摘したらしい。

1審判決に対しては、郵便不正事件で無罪が確定した村木厚子さん(厚生労働省社会・援護局長)が国側から得た賠償金で設立された「共生社会を創る愛の基金」が「アスペルガー症候群の認識に重大な誤りがある。受け皿を拡充する取り組みは進んでいる」との意見を表明。

日本弁護士連合会も「発達障害を理由に重い刑罰を言い渡しており、発達障害に対する無理解と偏見がある」との会長談話を出すなど、各方面から批判が出ていた。

高裁の判断は懲役14年となりましたね。
一審判決を不当に重すぎるとみるか?それとも出所後の生活の事まで考えた温情判決とみるか?で今回の高裁判決の見方が分かれると思います。

14年で出所すると56歳ですが、出所後に生活できるようにケアされるのか?そのあたりが問題になりそうですね。

実際、これまで30年の引き込もりで職業訓練も受けていないし、適切な治療も受けてない状態なので、今後、服役中にこのあたりがどの程度ケアされるかによって出所後の生活にも影響が大きいですよね。

最悪の場合として、「健康だけど仕事がない状態」となった場合に、受け皿はあるのかな?

今後の動向に注目ですね。

投稿: ASKA | 2013/02/27 12:03

一、二審で発達障害の一種のアスペルガー症候群と認定された無職男性被告(43)について、最高裁第1小法廷は22日付で被告の上告を棄却する決定をした。求刑(懲役16年)を上回る懲役20年を言い渡した一審裁判員裁判判決を破棄し、懲役14年とした二審判決が確定する。
被告側は、刑が重過ぎて不当などとして上告していたとの事。

さて、物議をかもしたこの事件の判決も懲役14年で確定しました。

この判決14年でホントに良かったのか?今の段階では分からないけど、出所後、60歳になるまでの数年間をちゃんと生活できるようにケア出来なかったら、1審判決の方が良かったと言う事になりますよね。

弁護士の方はこのあたりどう考えて控訴したのだろうか?被告本人にしたら、早く出たいと言うのはあるだろうけど・・・家族も同居を拒否しているので、相談できる人間が弁護士だけだった状況だと思います。

14年後、おそらくこの事件の事を覚えている人はいないだろうし、出所後の生活が報道される事もないでしょう。もし、報道されるとしたら、それは再犯した場合ですね。

どちらが良かったのか?答えは時間が出してくれるでしょうが、その答えを知る術はありません。 

投稿: ASKA | 2013/07/24 21:36

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