世田谷一家殺害事件再考その128(初動捜査にミス?)
12/30の産経新聞の報道で警視庁関係者が初動ミスを認めるような報道があったのでメモしておく。
要約すると
1)現場に大量に残されていた犯人の遺留品などの物証が、捜査本部内の雰囲気を楽観的にさせてしまった。
犯人の指紋、掌紋、血液といった身元特定に直結する有力な物証も豊富に残されていた。
捜査線上に重要参考人が浮かべば、すぐに犯行が断定できるという状態が、捜査員を油断させた。
2)事件直後の1月、現場付近を1軒ずつ聞き込むローラー作戦をきめ細かく展開するため、多くの機動隊員を投入した。
しかし、現場ではこんな声もあったようだ。
「一度話を聞いた家にも、何度も何度も足を運び、信頼関係を築いて、話しにくい近所の噂などを聞き出すのが本来の聞き込みだ。警察官だからといって、誰にでもできるわけではない」
「下町よりプライバシーの意識が高い世田谷という地域性も、聞き込みをより一層困難にするのに、捜査のプロ以外を投入したのは間違い」
3)平成18年5月には、信じ難い不祥事も発覚した。初動段階から成城署捜査本部で聞き込み捜査を担当していた同署生活安全課の警部補が作成した捜査報告書35通が、全くの虚偽の内容だった。「住民の協力が得られなかった」のが理由。
内容としてはこの3点ですね。
もちろん、刑事や検察など捜査関係の門外漢である私が言うのもなんだけど、感想を言わせてもらうと。
1)についてはなんとなく、分る気もする。
多分、怨恨、もしくは金目当ての強盗殺人事件で指紋が出ていると考えると、容疑者は直ぐに挙がると考えていたのかもしれませんね。
実はこの話は入江杏さん著の「この悲しみの意味を知ることができるなら(世田谷事件・喪失再生の物語)」でも当初の捜査本部の読みとして正月が明けて金融機関が動き出せば解決されると見込んでいた様子がうかがえる記述があります。
もちろん、初動捜査が重要である事は変わらない。これについては元警察庁刑事局長・元警視庁副総監の岡田薫さんが著書
「捜査指揮(判断と決断)」の始めで神戸大学院生殺人事件を例として「初動は警察の命」としてページを割いています。
2)については、微妙な所かなと思いますが・・・結局、現場の事を上層部が知らないと言う事なのかな?
民間会社の管理職なら、仕事が無い人員がいれば、その人員を有効に活用する為、適正を考慮して手が足りない部署に移動するなり、応援に出すと言うのは当然、行われる事なんですよね。
この事件については、適正を見誤ったと言う事なんでしょうね。
事件報道などでは「捜査員何人を投入して捜査している」なんて報道されますから、人数を掛ける事でそのあたりの印象を良くしたいと言う事もあるかもしれませんね。
あるいは、「それ」を承知の上でのトレードオフ的判断だったのかもしれませんが・・・・
3)はこの事件の事を追っている人間なら、誰でも知っている有名な事件です。
これも、組織の限界と言う事なのではないか?と思いますけどね。
沢山の人員を投入すれば、その中には適正を欠く人がいると言うのも仕方ない気がします。
だけど、警察とか検察とか言う「信頼されなければならない組織」の中では致命的ですね。
本来ならば、時間をかけて、適材適所へと配置されているはずなのですが、この事件でも2)と同じように、急きょ、人員を集めて捜査に投入してしまった事の弊害なのかもしれません。
この問題を起こした警部補だって、それまでは問題なく生活安全課で仕事をしていたんでしょう?
とは言え、繰り返しになるけど「あってはならない事」なんですよね。
前述の「捜査指揮(判断と決断)」の中で「ハインリッヒの法則」を引き合いに捜査の危うさを検証してますね。
もともと「ハインリッヒの法則」は労働災害についての法則です。
1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故があり、さらにその裏には300件のヒヤリ、ハットの事案が隠れている。
と言う事で、神戸大学院生殺人事件の被害者殺害に至るまでに、いくつもの小さなミスがあったのではないか?と検証されています。
「住民の協力が得られなかった」と言うのは他の捜査員も条件は同じだったと思います。
偶然、この人の担当区域だけその数が多かったと言う事もあるかもしれませんけどね。
正直に報告していれば、管理職なら別のベテランに変えるとか、他の方法を考えたと思います。
問題は「正直に状況を報告できない雰囲気があった」とか、「状況を報告しても、打開策を講じてくれなかった」と言う事があったのかもしれません。
結果だけを見てしまうと、この担当者に問題があったと言う事に見えそうだけど、本当にそうなのか?は当時の現場を知る人間にしかわからないでしょうね。
実際の事件でも似たような事件はありますよね。
今年5月に起きた「JTB遠足バス手配忘れ事件」は
JTBの社員(30)が高校の遠足用に依頼されたバスの手配を忘れてしまい、ミスの隠蔽の為に遠足の前日に生徒を装って、遠足中止を要求する手紙を高校に届けたが、遠足は中止されず、ミスが発覚したと言う事件でした。
今年の年末報道はこれが最後かな。
あとで別途、2014年度年末情報はまとめる予定です。
参考リンク
捜査指揮ー判断と決断ー
JTB遠足バス手配忘れ事件
この悲しみの意味を知ることができるなら―世田谷事件・喪失と再生の物語
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コメント
某掲示板で拾った物ですが、こういう推測はご存じでしょうか
http://gaichifuji.jugem.jp/?eid=3234 2009 8/5
http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20060517#1147802154
askaさんはどうおもわれますか?
投稿: | 2014/12/31 19:40
名無しさん、こんばんは
最初の手に怪我の人物については、無いだろうなと思います。
話が矛盾しています。手に怪我をした人物を事情聴取したのであれば、確実に指紋は採取、照合されたはずです。
指紋の捏造事件は周辺住民から協力が得られなかった為に仕方なく行われた物で、わざわざ事情聴取したのに指紋を採取しないはずが無いですね、それにこの事情聴取をしたのが、捏造事件を起こした警部補では無いでしょう。
この警部補は生活安全課ですから、事情聴取をするなら、捜査本部の人間が行ったはずです。
さらに言うと、この事件の捜査本部は成城署に置かれていますが、当初捜査を主導していたのは警視庁捜査一課ですから、警察署の最高幹部程度では捜査にストップを掛ける事はできないと思います。
地元に限らず「噂」と言うのは、基本的にアテにならない物がほとんどです。
犯人が小学生だから逮捕されてるけど、報道されないとか、犯人は自殺した近所の青年とか、これまで、難航した事件では決まって、そんな噂が出てますね。
根拠がある物なら警察に連絡すれば捜査してくれると思います。
続報が無いのは、事件に関係なかったからでしょうね。指紋、血液型があるので、違えば犯人では無いと言う事でしょう。
投稿: ASKA | 2014/12/31 20:21
回答ありがとうございます
矛盾というのがどこのことかよくわかりませんが、手の怪我をした青年の事情聴取を警部補が捏造したという推測ではないように思います
この青年はどのような理由で捜査対象外になったのでしょうね、一般的にはこういう場合指紋鑑定の結果とかアリバイがあったためとかそのような発表はないんでしょうか
この後の話は所詮噂・推測の話なのですが、この事件で個人的には警察の捜査にガッカリしました
これだけの証拠がありながらいまだに侵入経路も特定できない、最近になって逃走した時間が10時間もはやい可能性があるなど、14年間何をやってきたのかと思ってしまいます
近隣の住民が捜査に協力的でないのもうなずけてしまいます
投稿: | 2014/12/31 20:52
名無しさんへ
手の怪我をした青年に事情聴取したのであれば、それは捜査本部の人間(刑事)が事情聴取したはずです。
その時に指紋も採取・照合されたはず。
報道が無いのは、指紋や血液型が犯人の物と異なる為、事件と関係無しと判断されたと言う事でしょうね。
通常の報道では、事件に無関係になった場合、とか、逮捕されたけど不起訴になったりした場合、報道される事はほとんどありません。
報道されているかもしれませんが、報道が限定的でほとんどの人間が目にする事が無いと言う事かもしれませんね。
この事件の場合、14年間の問題と言うよりは、初動捜査の問題が大きいと言う事でしょう。
それで、「初動捜査にミス」なんて報道が出てくるんでしょう。
「近隣の住民が捜査に協力的でない」と言うのも少し違うかもしれません。
例の捏造事件の警部補は近隣住民の家を一軒ずつ回って、指紋採取の協力をしていたんだと思いますが、自治会の集金や募金集めなどやると、家に居いなくて連絡取れない人とか、露骨に嫌な顔する人とかいますからね。
普通の家なら捜査協力と言われれば、協力するでしょうが、警察嫌いな人だったら相当苦労するだろうなと言うのは容易に想像できますね。
そのあたりのストレスと、都合の悪い報告がし難い、職場の雰囲気などあって、捏造事件を起こしてしまったのではないか?と推測しています。
投稿: ASKA | 2014/12/31 21:17
回答ありがとうございます
重要人物が捜査から外れる場合でもあまり報道されないこともあるんですね、勉強になりました
もし自分が近隣住民だったら、こんな近くでこんな凄惨な事件が起きたなら、積極的に情報提供をして一刻もはやく犯人を逮捕してほしいと思うので、なぜなのか疑問を持ってしまいました
どちらにしてもはやくこの異常な殺人鬼が一刻も早く捕まって事件がなんとか解決に向かうことを切に願います
投稿: | 2014/12/31 21:26