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2015/07/14

長崎県佐世保市高1女子殺人事件その9(医療少年院送致)

医療少年院送致とする保護処分が決定されました。
1)殺人などの非行内容で送致された同級生の少女(16)について、長崎家裁は7月13日、「個別性の高い矯正教育と医療支援を長期間にわたって施さなければならない」として、第3種(旧医療)少年院送致とする保護処分を決定した。

 

2)家裁送致時、長崎地検は「刑事処分が相当」との意見を付けていたが、裁判長は「少女の特性からは、刑罰による抑止は効果がなく、治療教育の実施が望ましい」と判断したとの事。

 

3)裁判長は、少女について「共感性障害や、特異な対象への過度な関心が認められる」とし、発達障害の一種である重度の自閉症スペクトラム障害と認定したとの事。

 

決めたことを迷いなく完遂する性格などから、この障害の「非常に特殊な例」で、「同障害が非行に直結したわけではなく環境的要因も影響した」と述べたとの事。

 

4)小学5年から猫を殺し始め、次第に「人を殺したい」との欲求を強め、中学3年時には実母の死を体験し、殺人空想が増大したと分析。少女は、過去の事件から16歳以上だと刑事罰を受ける可能性が高いことを知り、その前に実行を決意したと明らかにした。事件を起こしたのは16歳になる2日前だった。

 

今回の事件については、「殺人と死体解剖の欲求を満たすため、友人を突然襲った快楽殺人」とし、「心神喪失や心神耗弱に至るような精神障害は認められない」と指摘したとの事。

 

しかし、裁判長は「少女の特性が大きく影響している点を考慮しなければならない。殺人欲求は抱き続けているが、謝罪の言葉を述べるなど変化の兆しはある」などと言及したとの事。

 

更生には、他者の気持ちや痛みを意識できるよう促し、孤立感を解消するなどの矯正教育と医療支援が必要で、「第3種少年院で可能な限り長期間、治療教育を施せば、矯正の効果は十分期待できる」と結論付けたとの事。少女は近く、長崎市内の少年鑑別所から第3種少年院に移送される見込みとの事。

 

5)少女には、重度の自閉症スペクトラム障害(ASD)など複数の障害があると認定。小学校で問題が顕在化した際に適切な対応がなされなかったことなどと相まって非行に至ったと指摘したとの事。

 

6)少女には、人の痛みや苦しみが理解できない重い「共感性障害」などASDの特性のほか、「素行障害」があると認定。決めたことは迷いなく遂行する性格などが絡み合い、「ASDの中でも非常に特殊な例」と判断したとの事。

 

その上で、小学生時代に給食に異物を混入した事件で問題が発覚しながらも、周囲から適切な保護や対応がとられなかったことや、実母の死を体験したことで、人を殺したいという特異な関心を抑制できなくなった、と非行に至る経緯を分析したとの事。

 

7)遺族に厳罰を望む感情がある中でも、検察官送致(逆送)を選択しなかったのは「刑罰による抑止は効果がない。刑務所は特性に応じたプログラムが十分でなく、かえって症状が悪化する可能性がある」と説明。精神科医らによる長期の矯正教育と医療支援が必要と結論づけたとの事。

 

8)決定は、不安定な少年を支える社会のあり方にも言及。「今後も同様の問題を抱えた青少年が現れる可能性は否定できず、そのような少年の対応に取り組む体制を構築していくことも重要である」と投げかけたとの事。

 

9)小学5年の下校途中に猫の死体を見かけて興味を持ち、猫を殺すようになってから、殺人欲求を抱くようになったとの事。

 

10)少女の付添人弁護士によると、少女は審判で、非行内容を全て認めていた。

 

11)長崎地検は昨年8月から約5カ月間、精神鑑定で責任能力の有無を調べるための鑑定留置を実施し「刑事処分相当」の意見を付けて家裁送致。家裁も今年2月の第1回審判後、約4カ月間鑑定留置していた。

 

12)自閉症スペクトラムの診断基準としてローナ・ウィングらは以下の三つを上げている
・対人関係の形成が難しい「社会性の障害」
・ことばの発達に遅れがある「言語コミュニケーションの障害」
・想像力や柔軟性が乏しく、変化を嫌う「想像力の障害」
従来は広汎(こうはん)性発達障害とも呼ばれていた。

 

こんなところですね。
予想はしていましたが、医療少年院送致となりました。
これは、あの酒鬼薔薇事件や会津母親殺人事件と同じ処置ですね。

 

同じと言っても、内容は微妙に違います。
以前にも書きましたが、
酒鬼薔薇事件の鑑定結果では精神疾患は無い。その一方で
「未分化な性衝動と攻撃性の結合により、持続的で強固なサディズムがこの事件の重要な原因である。」
他には
「自己の価値を肯定する感情が低く、他者に対する共感能力が乏しく、その合理化・知性化としての虚無観や独善的な考え方がこの事件の原因の一つである。」
「この事件は長期的に継続された多様で漸増的に重症化する非行の最終的到達点である。」
として、医療少年院に送致されました。

 

会津母親殺害事件では鑑定結果が発表されていませんが、判決内容では
裁判長は「完全責任能力はあるが、比較的軽度の精神障害が認められる。十分な治療と継続的な教育を施す必要がある」として、医療少年院送致の保護処分とする決定をした。また、医療措置終了後は「(犯罪傾向が進んだ少年のための)特別少年院に移送するのが相当」との処遇を勧告した。

 

裁判長は、
長男には障害により、高い知能水準に比しての内面の未熟、限局された興味へこだわる傾向、情性の希薄さ、他者への共感性の乏しさなどの特質があり、対人技術に乏しく、周囲への対処方法が分からず混乱したり、時として自分の劣等感を刺激され不満等を覚え、これを蓄積する傾向がある。

 

このあたりを見ると、どちらかと言えば、会津母親殺人事件の犯人に状況は似ているのかもしれません。
裁判長の「内面の未熟、限局された興味へこだわる傾向、情性の希薄さ、他者への共感性の乏しさなどの特質があり、対人技術に乏しく、周囲への対処方法が分からず混乱したり、時として自分の劣等感を刺激され不満等を覚え、これを蓄積する傾向がある。」と言うのはこの長崎の事件の少女と同じ「自閉症スペクトラム」ではないの?と思ってしまいますね。

 

そもそも「自閉症スペクトラム」と言う言葉が比較的新しい言葉なのかな。
私は専門家では無いので、詳しくは専門書や解説を読んでいただいた方が良いのですが、私の解釈では
「自閉症スペクトラム」は自閉症やアスペルガー症候群などの症状の総称ですね。
従来の事件報道では大抵の場合、広汎性発達障害と報道されていました。

 

さて、審判の内容にも目を向けてみると
A)医療少年院送致には賛成です。この少女はあの酒鬼薔薇事件の少年Aと同じ処遇になるでしょうね。
「刑罰による抑止は効果がない。刑務所は特性に応じたプログラムが十分でなく、かえって症状が悪化する可能性がある」と言うのも良いと思います。

 

問題は、ちゃんと治療更生ができるのか?と言う点です。
それは、「少年A」の今後に注目する事になりますね。

 

B)計画的犯行だった・・・16歳になると、罪が重くなるから、誕生日の2日前に犯行を行ったと言うのには、少し驚きました。
もともと、高校にも進学しているので知能は高いですよね、なので当然考えられる部分なんですが・・・それなら、どうして、殺人衝動をを隠さなかったのか?と言うのは結局、分かりませんでした。

 

結局、それ自体が「自閉症スペクトラム」の特性の一つだったんでしょうね。
誤解されそうですが、殺人衝動が特性と言うのでは無く、「コミュニケーションの障害」や「社会性の障害」と言う意味です。
「こんな事を話したら、どう思われるだろう?」と言うあたりを考えられなくて、思った事を口にしている結果殺人衝動を隠さなかったんだろうと考えています。

 

C)殺意の原点は?
「小学5年の下校途中に猫の死体を見かけて興味を持ち、猫を殺すようになってから、殺人欲求を抱くようになった」
今回の場合、裁判長が「快楽殺人」と断言してるのも驚きですが・・・
酒鬼薔薇事件の場合、性的興奮と殺人行動が密接に結びついていました。
過去の快楽殺人事件の中でも、自殺サイト殺人事件と酒鬼薔薇事件では性的興奮が結びついてます。
会津母親殺人事件では、死体写真や猟奇的漫画に興奮して、殺人・解体願望が芽吹くようになったとも言われています。

 

殺人衝動は性的興奮に結びついていないようですね。このあたりはホントに快楽殺人なのか?とちょっと微妙な感じもします。
快楽殺人の定義にもよるんでしょうが・・・

 

しかし、きっかけは猫の死骸を見た事。動物虐待によって殺人衝動が芽吹いてしまったと言う事ですから、条件がそろえば、ある確率で快楽殺人者が生まれてしまんでしょうね。
その意味では、たかが動物虐待と軽く見る事はできませんね。

 

D)精神鑑定の結果
検察側の精神鑑定が約5カ月間、「刑事処分相当」の意見を付けて家裁送致してますね。
検察の精神鑑定は「責任能力」の有無を調べる為に行ったので、責任能力があれば、「刑事処分相当」と言う事になるのでしょうが・・・結局、それしか見なかったと言う事なのかな?
鑑定の結果「自閉症スペクトラム」と言う診断にはならなかったのか?
診断はしたけど、責任能力は有りと言う結論だったのかな?

 

検察としては遺族の処罰感情もあるので、「自閉症スペクトラム」と知っていても「刑事処分相当」としたのかな?

2015/07/14追記
E)小学校の給食異物混入事件
一つ書き忘れていました。この事件、防ぐ事ができたかも?と言う事ですね。
裁判長も言ってますが、小学校時代の給食への異物混入事件の時にしっかり対処をしていれば、この事件は防げたかもしれないんですよね。

この少女の幼少期に、両親や周囲の人間は違和感を感じなかったのかな?
「自閉症スペクトラム」の特徴を個性を見ていたのかな?
学校の成績が良ければ、見逃してしまうかもしれませんね。

参考リンク
長崎県佐世保市高1女子殺人事件その8(児童相談所、追記)
会津母親殺人事件
過去の快楽殺人事件
キーワード
発達障害かもしれない
(この本では高機能自閉症・アスペルガー症候群・LD,ADHDなど、軽度発達障害を中心に書かれています。なので「自閉症スペクトラム」については不十分ですが、発達障害の入門書としておすすめです。ただ、一方で、この本に対して、ある種の偏見を助長すると言う批判の声もある事を付け加えておきます。)

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コメント

続報です。

長崎県佐世保市で高校1年の女子生徒=当時(15)=が同級生の少女(17)に殺害された事件で、医療(第3種)少年院に送致された少女が謝罪文を書き、女子生徒の遺族側に渡していたとの事。

少女の元付添人の弁護団が報道各社の質問に文書で回答したとの事。

弁護団によると、謝罪文は女子生徒宛てで、直筆で書かれ、遺族の代理人弁護士を通して渡された。時期や内容などは明らかにされていないとの事。

こんなところですね。
この報道の意味がよく分かりませんね。
謝罪の有無を報道する必要があったのかな?

事件から2年が経過して、関係者や地元の方、以外はほぼ事件の事を忘れてしまっていると思うのですが・・・
なぜ、今、この報道をする必要があるのだろう?
謝罪文は遺族に渡されているのだから、遺族には伝わっているいるし、それだけで謝罪の目的は達成されているように思います。

なので、この報道には謝罪以外に別の意味があるのかな?
確かに、この事件はショッキングな事件だったし、当時、耳目を集めた事件でした。
2年目の節目報道に、少女の状況を出したいと言う報道の要求は分かるような気がしますが・・・
それで少女側に何かメリットがあるのかな?

謝罪しないよりは謝罪した方が少女に対するイメージは良くなりますね。
他には治療した事で効果が出ていますよと言うアピールにもなるかな。

たしか、酒鬼薔薇事件の少年Aは医療少年院に7年入っていたのかな?
同じぐらいの治療期間が必要なら、あと5年ぐらいは治療が必要と言う事ですね。

投稿: ASKA | 2016/07/25 18:45

続報です。

事件から4年。加害少女の元付添人弁護団が書面で少女の近況を明かしたとのこと。

加害少女は現在、医療少年院で更生のための教育を受けている。
少女の元付添人弁護団は、加害少女の近況についての質問に書面で回答、少女とは、2、3か月に一度面会をしていて、少女が毎年遺族への謝罪の手紙を書いていることや具体的内容は言えないものの事件について語ることがあることなどを明らかにしましたとのこと。

また、元付添人は加害少女に望むこととして「どのような苦しみをご遺族の方々へ与えているかということなどを心の底から理解し決して再犯に及ぶことがないようにしてほしい」とコメントしているとのこと。

この内容をみると、少年Aの治療や経過とほぼ同じ内容のように見えますね。
少年Aは医療少年院に7年いました、この少女は現在4年目、もう数年で社会に復帰する事になると思います。

前回の少年Aの社会復帰後の活動が、この少女の治療期間に影響があるのか?と言うあたり、ちょっと気になりますね。

少年Aの社会復帰後の活動には、賛否両論があるとは思いますが、関係者の中にも良い印象が無い人がいると思うんですよね。

私もどちらかと言えば、肯定はできないですね。

なので、もう少し治療期間を延ばそうとか、そういう動きが出てもおかしくは無いと思います。
もっとも、少女本人が少年Aよりも、治療がずっと進んでいると言う場合などもあると思いますが。

いずれにせよ、治療だけでなく、世の中の事とか、人生をどう生きるか、みたいな事なども教える事ができれば、良いと思いますね。

焦らずに十分に治療できたところで、社会復帰して欲しいと思います。

投稿: ASKA | 2018/08/07 19:34

医療少年院に収容されている「元少女」の収容継続を福岡高裁が認めたとのこと。
現在23歳の元少女は、佐世保市の高校に通っていた2014年7月、同級生を殺害したとして逮捕され、医療少年院に収容されている。
長崎家庭裁判所は2021年8月、2024年までの収容継続を認める決定を出した。

元少女側はこれを不服として、「精神に著しい障害があり、矯正教育を継続して行うことを特に必要であるとはいえないのに認めた。収容継続の期間を3年間としたのは著しく不当」などと、福岡高裁に抗告していた。
しかし、福岡高裁は11月4日付けで長崎家裁の決定を支持し、抗告を棄却したとのこと。

福岡高裁は「精神に著しい障害があると認めたことや、施設内や社会内の処遇に要する期間を考慮し、収容継続の期間を3年間とした原決定の判断が不当であるとはいえない」としているとのこと。

こんなところですね。
事件が2014年、医療少年院送致が決定したのが2015年、今年で6年間収容されているんですよね。
それに対して、2024年まであと3年収容を延長すると言う決定です。

すると、2024年で9年間収容と言う事になり、あの「少年A」の7年よりも長くなるんですよね。

ちょっと驚きですね。理由の
「施設内や社会内の処遇に要する期間を考慮し」の部分も良くわからないのですが・・・施設外で受け入れてくれる場所が無いと言う事かな?

家族が受け入れを拒否しても、少年Aの時も家族とは同居してないんだよね。少年Aの時のように自立の為の職業訓練を受けているなら、仕事をして経済的に自立する事ができそうなんですが・・・他に理由があるのかな?

「精神に著しい障害があると認めた」これが原因なのかな?

ちょっと良くわかりませんね。
続報を待ちましょう。

投稿: ASKA | 2021/11/14 14:15

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