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2018/08/08

栃木小1殺害事件再考その33(二審判決 無期懲役)

控訴審判決公判が8月3日午前10時半から、東京高裁で開かれた。
裁判長は、一審宇都宮地裁の裁判員裁判判決(無期懲役)を破棄したが、被告に無期懲役を言い渡したとのこと。

1)弁護団は、自白は検察官に誘導された虚偽の内容だと指摘。自白通りの殺害は不可能で、現場にあるはずの大量の血痕がないことから「別の場所で殺害された」「自白調書の信頼性は全くない」と訴えていた。

DNA型鑑定でも、女児の遺体などから被告の型が検出されなかったことを強調し「出所不明の型があり真犯人の可能性がある」と主張していたとのこと。

2)裁判長は「被告が犯人である可能性を示す複数の状況証拠を総合すれば、被告が犯人と認められる」などと述べたとのこと。
(「間接事実を総合すれば、殺害の犯人と被告の同一性は合理的な疑いを差し挟む余地なく認められる」と結論づけた。)

・栃木県から遺体発見現場の茨城県に向けて走行し、約4時間後に自宅方向に戻ってくる被告の車の通行記録が残されるなど

・被告が殺人事件の取り調べを受け始めた頃、母親に「自分で引き起こした事件、お母さんにめいわくをかけて本当にごめんなさい」などと記した手紙を送っていたことを重視し、「被告が犯人でなければ合理的に説明できない」としたとのこと。

・1審は、遺体に付着した獣毛が被告の飼い猫の毛である可能性が高いとしたが、裁判長は「被告の飼い猫由来として矛盾しない」との程度で認定したとのこと。

・遺体に付着していた粘着テープから検出されたDNA型について、高裁は「被害者や鑑定人のDNA型と考えて矛盾はない」と指摘。弁護側は「被告以外の真犯人のものである可能性が極めて高い」と主張したが、認めなかった。

・裁判長は、遺体に付いていたテープから検出された第三者のDNA型について「指紋検出作業をした際のコンタミネーション(汚染)の可能性がある」とし、この型が「殺害犯人に由来するものである可能性が高いと言える合理的な理由はない」と判断したとのこと。

別の報道では
裁判長は「間接事実を総合すれば、被告が殺害の犯人であることが、合理的な疑いを差し挟む余地なく認められる」としたとのこと。
裁判長は、女児が拉致された翌日に被告の車が遺棄現場方向に走っていたとする走行記録は「被告が犯人であることを推認させる間接事実」と指摘。別事件で逮捕された後に母親にあてた「めいわくをかけてしまい、本当にごめんなさい」とする手紙は「殺人を犯したことを謝罪する手紙で、被告が殺害の犯人でないとすれば、合理的に説明することは困難」としたとのこと。

被告が逮捕後、母親に「事件」を謝罪する手紙を書いていたことについて、1審は「事件」の趣旨が必ずしも明らかでないとしていたが、高裁は手紙が書かれた時期や内容から「殺人を指すことは明白」としたとのこと。

3)1審判決は録画映像などから「自白は具体的で迫真性に富み、信用できる」と有罪を認定した。これに対し、高裁判決は「取り調べ映像により犯罪事実を直接的に認定したことは訴訟手続き上の法令違反がある」と指摘。さらに、被告の自白に基づき、1審判決が殺害現場と殺害時刻を起訴事実通りに認定していたことについても、「事実誤認があり、破棄を免れない」としたとのこと。

4)控訴審で裁判長は、検察側に訴因変更するかどうかを検討するよう打診。検察側は「平成17年12月2日午前4時ごろ」としていた殺害日時を「1日午後2時38分ごろから2日午前4時ごろまでの間」に、「茨城県常陸大宮市の林道で女児を殺害」としていた殺害場所を「栃木県内か茨城県内とその周辺」とする訴因変更を請求し、高裁が認めていたとのこと。

5)1審判決によると、被告は偽ブランド品を所持していたとする商標法違反容疑で平成26年1月29日に逮捕され、同罪で起訴された2月18日に、検察官に殺害を自白。供述を変遷させた後に6月11日から詳細な供述を始め、24日に殺人罪で起訴された。裁判長は、2月25日の取り調べは被告が黙秘権を行使したいと申し出た後も30分以上続行された末、被告が「もう無理」と言いながら自殺を図ろうとしたと指摘。余罪取り調べが44日間に及び、弁護人からの中止の申し入れも無視されていたことからも、任意捜査の限度を超えた違法な取り調べだったと判断したとのこと。

一方、検察官が被告に「これまでの供述にこだわる必要はない」と告げていたことなどから、「調書が、違法な余罪取り調べによって得られたものとは評価できない」としたとのこと。

6)裁判長は、「供述内容が信用できるか」という自白の信用性を判断するために取り調べの録音・録画を用いることには「強い疑問がある」と述べた。「印象に基づく直感的な判断になる可能性が否定できず、取り調べ録画を使ったことが1審が判断を誤った要因の一つだ」としたとのこと。

1審では、検察側が取り調べ録画を、犯罪自体を立証するために調書に代わって用いる「実質証拠」として請求。地裁は、供述の信用性を判断するための「補助証拠」として録画を用いることを提案し、検察側、弁護側の了解を得たとのこと。

録画はあくまで補助証拠で、犯罪事実の立証には供述調書を使うという位置付けだったが、裁判長は「現実の心証形成は、録画を視聴することで直接的に行われる」と指摘。「裁判所から、あたかも調停案のように、録画を信用性の補助証拠とすることを提案すべき筋合いではなかった」と地裁の対応を批判したとのこと。

その上で、録画を使った信用性判断では、「取調官に強制された供述か」「自発的な供述か」という単純な二者択一に陥り、被告の自白のように「自発的だが、内容は虚偽の供述」が見落とされる危険性があると指摘。供述に秘密の暴露があるか、客観的な事実と整合するかなどを含めて多角的に検討し「自白供述から適切な距離を保って、冷静に熟慮することが肝要」としたとのこと。

7)裁判長は「1審はもっぱら、殺害を認めた自白が信用できるかどうかを検討しており、殺害の日時・場所を裏付ける証拠の検討が行われていない」と指摘。殺害の場所や態様に関する自白は、遺体発見現場や遺体の客観的状況に照らすと矛盾する可能性があり、「被告が作り出した虚構の疑いが否定できない」としたとのこと。

8)1審については、取り調べの録音・録画を見た結果、「被告が自発的に供述しているととらえ、供述が虚構である可能性に思い至らないまま、信用性を認めた」としたとのこと。

9)弁護団の
主任弁護人のK弁護士は「殺人罪で有罪とする事実が間接証拠にあったのか。驚きと怒りの両方がある」と話したとのこと。

I弁護士は、高裁が殺害したとの自白の信用性を認めながら、方法などの部分を虚偽と認定したことについて、「緻密さと粗雑さが入り交じった判決。論理もおかしく、裁判官が自信を持って出したのか疑問だ」と話したとのこと。

弁護団は「手紙は(多くの意味に捉えることができる)多義的なのだから、極めて慎重に判断すべきだった」と指摘した。被告も休廷した際、接見した弁護団に「手紙(の評価)がすごい(不当だ)」と不満を漏らしたととのこと。

10)高裁は、無期懲役とした量刑判断について「殺害場所や態様など事実の解明は十分ではない」とした上で「落ち度のない被害女児をナイフで多数回突き刺して殺害したことは明らかで極めて残虐」と述べたとのこと。
量刑理由で「犯行を否認し、不合理な弁解に終始しており、反省する姿勢は全く見られない」と断じた。

11)ある捜査幹部は「自白を記録した映像を『違法』とまで言われるのは納得できない。そもそも可視化の実施により、供述の信用性と明白性を担保するのは弁護士会全体の要請だったはずだ」と不満を漏らしたとのこと。

F裁判長は過去に別の判決でも取り調べ録画の証拠採用に否定的な見解を表明しており、ある検察幹部は「今回の判決は『F説』として受け止めることになるのではないか」として、「特殊ケース」との見方を示したとのこと。

別の幹部は「検察として今後の捜査や公判への姿勢を変えることはない」との見解を明かし、「同様の考え方が他の裁判官にも広まることが危ぶまれる」とも話したとのこと。

こんなところですね。
いろいろと考えさせられる判決ですね。
一審判決のポイントは自白証言の信用性だったんですよね。
ところが二審では、その自白証言の信用性に疑問符が付く状態になりました。

この為、自白が有罪の決め手なら、その自白に信用性が無いなら、有罪の判断が揺らぐのではないか?と考えていたのですが・・・自白自体の根幹部分は認定し、一部は被告の虚構だと判断しましたね。

この点はあー、なるほどと言う部分ではあります。自白の内容が客観的な事実に矛盾する可能性があるが、その部分は実は虚構なんですよと言う事なんですね。
これで、自白の信用性の疑問符が消えたわけですね。

一方で、一審で有罪の判断のポイントとなった録画映像について、その有効性に疑問符をつけた、というか、取り調べ自体が違法だったと言う事なんですね。
違法な取り調べの結果の供述を録画した映像が証拠にはならないと言う事ですね。

なので、一審判決の判断理由が無くなってしまったんですが・・・供述以外の間接証拠、状況証拠によって、犯行は立証できると言う事になりました。

一番の証拠となったのが母親に宛てた手紙でした。
この点は、私も裁判長の判断に同意なんですよね。
以前にも書きましたが、偽ブランド品の密輸販売については、母親は同時に同じ容疑で逮捕されているわけで、逮捕の事情は知っていたはずだと思うわけです。

それなのに、改めて謝罪の手紙を書く理由は無いと思うんですよね。

他には、車の走行記録(Nシステム)ぐらいでしょうか。
それ以外については、犯人性を示すにはどちらとも言えないと言う事ですね。

で、プラス、自白の根幹部分は認定してます。自白は違法捜査の結果だけど、根幹部分は認定と言うちょっと微妙な判断ですね。

いずれにせよ、最高裁での決着を待つ事になりますね。
証拠が少ない事は変わりなく、少ない証拠の判断で判決は変わるかもしれません。

弁護側としては、
A)自白の信用性を継続して争うでしょうね。
B)二審判決の決め手の手紙の趣旨について、事件とは無関係と言う主張をする事になるでしょうが・・・
なにしろ、不合理な弁解と断じられているわけで、そこを覆すのが弁護人の腕の見せ所と言う事なのかな。
C)地味に状況証拠を一つ、一つ反論するしかないですね。

ただ、新しい証拠が出せないと、上告(最高裁)も棄却される可能性があると思うので、単純に上告すれば良いと言うわけでは無いと思います。
このあたりも注目ですよね。

次が最後です、事件の行方に注目しましょう。

参考リンク
栃木小1殺害事件再考その32(一審判決 無期懲役)

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コメント

コレはもう先進国の裁判ではない。こんないい加減な裁判では弁護士の仕事も大変だ。普通の理屈も通じないんだから。
あんな手紙で何がわかる?母親に謝罪したから殺したんだろうなんて、それ、勝手に想像しているだけですよね。先進国の裁判官がこれ見たら笑いますよ。裁判官頭だいじょうぶか?
すみません。腹が立ってめまいがします。

投稿: まーぷる | 2018/08/09 14:44

栃木県警察がダメだと思っていたが、裁判所もダメですな。
高等裁判所?
まるで昭和の裁判みたいだ。

投稿: 空き地 | 2018/08/09 19:51

皆さん、「三鷹バス痴漢冤罪事件」をご存知ですか?2011年の事件です。
もし、ご存知ないかたは、ぜひググってみて下さい。
我が国の裁判がどこまでいい加減なものであるか、改めてお分かりになるかと思います。
もちろん、一部の裁判官でしょうが、このような人物を裁判官として表に出していた時点で、無視出来ない問題があると考えますね。

この逮捕劇の裏では、彼の義父が、警察へ情報提供したんですよね。そして、多額の謝礼金を受け取っている。うーん...闇を感じるのは、私だけでしょうか...

投稿: ARI | 2018/08/10 14:21

手紙が第一証拠になるんですかねw

何ですか これw
自白、Nシステムから始まって猫の毛あたりで迷走しだして
手紙w
自白した後(自白させられた後)親に書いた謝罪の手紙ですよね

迷惑かけてごめんなさい 良いやつじゃん
迷惑かけてごめんなさい と言えるやつが迷惑かけることするかな?

裁判官の虚構と妄想で有罪って出るんですね

投稿: | 2018/08/11 21:48

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