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2021/12/18

神奈川県横浜市大口病院連続殺人事件その8(一審判決)

一審判決は無期懲役(求刑:死刑)です。
***第6回公判(10月12日)***
被告人質問
1)自分の勤務時間外を狙って患者を死亡させようとした動機として「何かあったときに、患者の家族から責められる可能性があり不安だった」と答えたとのこと。
また、以前、容体が急変し死亡した患者の家族が看護師らを責めた際に「私個人に突き刺さる内容だった」と恐怖を感じたことを明かしたとのこと。

2)検察側の被告人質問で事件以前の患者への消毒液混入について「お話ししたくありません」と答えたとのこと。

3)殺害したとされる患者3人が死亡すると確信していたか問われ、否定したものの「おそらく亡くなるとの認識だった」とも述べたとのこと。

別の報道では
事件当時はKAさんが亡くなるだろうという認識はあったものの、警察の捜査が始まるまで「それが殺人だという認識はなかった」と明かしたとのこと。

4)検察側から「2人目の被害者があなたの勤務時間外に亡くなったことを、別の看護師から聞いた時、どう思いましたか」と問われると、「ホッとしました」と答えたとのこと。

5)被告は殺害方法について、別の病院で看護師に誤って消毒液を注射された患者が死亡したというニュースを見たとしたうえで、「犯行の際にその方法を思い付いた」と答えたとのこと。

別の報道では(上の内容に続けて)
検察間「だいたいいつごろのはなしか?」
被告「看護師になってすぐのころだったと思います」と答えたとのこと。

6)病院には3種類の消毒液がありましたが、点滴に入れた消毒液を選んだ理由については「無色で無臭だから」と話したとのこと。

7)旧大口病院に就職した当初は夜勤が月5回程度だったが、徐々に増え、事件当時は月8回の頻度だったとのこと。裁判長から「体調が芳しくなかったことは夜勤が多かったことが要因なのか」と問われ「そうだと思う」と話したとのこと。

8)検察官「睡眠薬を処方されていた。多めに飲むことはあったか」
被告「医師から処方される2~3倍の量を飲んでいました」とのこと。

***第7回公判(10月13日)***
証人尋問(検察側の精神鑑定を行った医師)
1)起訴前に被告への面会や家族への聞き取りで、被告が職場で人の名前を覚えづらかったことや高校時代に音に敏感だったことなどから、軽い「自閉スペクトラム症」だったとする鑑定結果を述べたとのこと。
ただ、この病気について犯行動機の遠因となったものの、「外部への攻撃性は特性ではない」としたうえで、計画や実行には全く影響がなかったと指摘したとのこと。

別の報道では
医師は「被告は犯行当時自閉スペクトラム症という自閉症で程度は軽く、それが犯行に及んだ要因とは言えない」と証言したとのこと。
そのうえで「犯行計画を立て目的通りに実行し、犯行後は自己防衛もするなど一貫した行動をしている」と指摘したとのこと。

***第8回公判(10月19日)***
証人尋問(弁護側の精神鑑定を行った医師)
1)医師は、「犯行は当初の動機から逸脱していて、衝動的、短絡的であり統合失調症の典型的な行動パターンだ」と指摘したとのこと。 被告は犯行時にうつ状態で、統合失調症かその前兆となる症状が発症していたと考えられるとする鑑定結果を証言したとのこと。

***第9回公判(10月20日)***
証人尋問(弁護側の情状鑑定を行った犯罪心理学者)
1)犯罪心理学者は「鑑定を行った結果、被告人の言語理解は平均並みの能力であったが、物事を判断する処理能力は著しく低かった」などとしたうえで、「看護師の適性があるとは思えない」と指摘したとのこと。
また、以前より患者のカルテを抜き取るなどの問題行動があったことから、「自分にとって不快なものを無いものにしてしまおうという考えのもと、一時的にでも不安を解消しようとする傾向にあった」などと証言したとのこと。

2)被告人質問(遺族側代理人)
心境を問われた被告は、「本当に申し訳ないことをしてしまったと思う」と改めて謝罪したとのこと。

死亡した女性の代理人に「(女性が)亡くなったと聞いてどう思ったか」と問われ、同被告は「どう表現したらいいか分からない」と答えたとのこと。「家族が同じことをされたらどう思うか」との質問には、「許せないと思う」と答えたとのこと。

死亡した男性の代理人は、被害者と被告の両親の年齢はあまり変わらないと指摘。同被告は「家族を奪ったことの罪の重さを痛感した」と述べたとのこと。

別の報道では
代理人「犯行後、自分の両親に会って、どう思ったか」
被告「両親はかけがえのないものだと思いました。ご遺族にとって、かけがいのない命を奪ってしまったと思います」と答えたとのこと。

別の報道では
弁護側から「戻ることができれば、いつに戻りたいか」という質問に対し、被告は「大口病院に入職する前」と答え、「看護師をやめるべきだった」と話したとのこと。

***論告求刑公判(10月22日)***
1)検察側は死刑を求刑したとのこと。

2)検察側は論告で「自己中心的かつ身勝手な犯行で、計画性も認められる。生命軽視の姿勢が表れている」と非難。過去の判例に照らし「死刑を回避すべき事情はない」としたとのこと。

別の報道では
「社会的弱者である患者を守るべき立場にありながら、身勝手で自己中心的な考えにより犯行を行っていて、酌量の余地は全くない。死刑に処するのが相当」として、死刑を求刑したとのこと。

3)論告の前に中毒死した3人の遺族の意見陳述が行われた。
Hさんの長男(61)は「父が死に至るまでの経過や様子を知り、胸を押しつぶされる思い」と審理を振り返り、「看護師という人の命を預かり、支える職に就く人の手によって命を奪われるなんて、絶対に許せない」と話したとのこと。

Nさんの娘は「ただ静かに最期を迎えるはずだったのに、私が大口病院を選んだ。今でも申し訳ない気持ちでいっぱい。極刑以外、考えられない」と涙ながらに話したとのこと。

Kさんの姉は代理人弁護士を通じて、「裁判を見るまで死ねないと思ってここまで来ました。被告の保身のために妹は死んだんですね。5年過ぎた今でも悔しくて悲しくて、たまりません」と訴えたとのこと。

4)弁護側は「夜勤という過酷な状況で、統合失調症の影響があって本件に至ったことを斟酌すべき」などとして、無期懲役の判決を求めたとのこと。

5)被告の最終意見陳述
「私の身勝手な理由で、大切な家族を奪ってしまいました。死んで償いたいと思っています」とのこと。

6)裁判長は判決について「どのような結果になろうとも主文は最後にします」と宣告したとのこと。

***判決公判(11月9日)***
1)横浜地裁は、無期懲役(求刑:死刑)の判決を言い渡したとのこと。

2)責任能力について(完全責任能力を認める)
A)被告人は、犯行当時、自閉スペクトラム症の特性を有しており、うつ状態にあったとは認められるものの、それ以外の精神の障害は認められないとのこと。
B)勤務時間中に、自身が対応を迫られる事態を起こしたくないと考えて犯行に及んでおり、このような犯行動機は了解可能であり、その目的に沿って犯行手段を選択し、自身の犯行が発覚しないように注意して犯行に及んでおり、自身の行為が違法なものであることを認識しつつ、合目的的に犯行に及んでいるとのこと。
C)被告人の弁識能力又は行動制御能力が著しく減退してはいなかったと認められ、完全責任能力が認められるとのこと。

3)量刑理由について
A)被告人の弁識能力又は行動制御能力が著しく減退してはいなかったと認められ、完全責任能力が認められるとのこと。
B)動機形成過程には、被告人の努力では、いかんともしがたい事情が色濃く影響しており、 被告人のために酌むべき事情といえる。被告人は, およそ反社会的な行為とは無縁の生活を送ってきたものであり、もともと、 反社会的な価値観や性格傾向を有していたとは認められない。被告人には、他者に対する攻撃的傾向も認められないとのこと。

C)現在は、自己の犯した犯罪の重大性を痛感し、被害者やその遺族らに対し謝罪の言葉を述べ、 被告人質問では償いの仕方が分からないと述べていた被告人が、最終陳述では死んで償いたいと述べるに至っている。被告人には前科前歴がなく、上記のとおり反社会的傾向も認められないことからすると、更生可能性も認められるとのこと。

D)以上の事情を総合考慮すると、被告人に対し死刑を選択することには躊躇を感じざるを得ず、無期懲役刑を科し、生涯をかけて自身の犯した罪の重さと向き合わせることにより、償いをさせるとともに、更生の道を歩ませるのが相当であると判断したとのこと。

気になったのでメモ(大口病院に勤務した理由)
被告人は、自閉スペクトラム症の特性を有し、臨機応変な対応を行わなければならないという看護師に求められる資質に恵まれていなかったところ、終末期医療を中心とする大口病院であれば、自分でも務まると考えて勤務を開始した。

4)遺族のコメント
Hさんの遺族は「死刑にならないのはおかしい。 検察には控訴してほしい」とのこと
Nさんの遺族は「死刑が選択されなかったことを納得できる理由は説明されていませんとのこと。
被告人は、これからどうやって償っていくのかという思いです」とのコメントを出したとのこと。

***控訴(11月22日)***
検察側、弁護側双方が22日、控訴した。ともに控訴の理由を明らかにしていないとのこと。

こんなところですね。
3人が死亡で、完全責任能力も認められてるので、求刑通り死刑でもおかしくない事件です。
量刑理由を要約するとこのあたりかな
1)自閉症スペクトラムで看護師の資質が無かったのに、終末期医療の現場の仕事をする事になったストレスで、短絡的な犯行をおこなった点は汲むべき事情と言える。
2)犯罪歴もなく、攻撃的な傾向もない。
3)死んで償いたいと反省している。
4)総合的に更生可能と判断した。

それから、判決文の中で大口病院に勤務した理由が語れていましたが、私の想像の逆でしたね。
終末期医療だから、自分にもできると思ったんですね・・・終末を迎える患者だから何もせずに見送るなんて事があるはずないと思うですが・・・看護師にはそう見える点があるのかな?
ここは専門家のご意見を伺いたいですね。

話を本筋にもどすと、被告人質問でも答えていましたが、大口病院に勤務する前に看護師を辞めていればよかったと後悔しているんですよね。
結果的にあそこで、看護師を辞めていれば、この事件を起こす事は無かったと言う後悔なのか?
それとも、自分に看護師の適性が無いのに、看護師を続けてしまった後悔なのか?

辞めたいのに、辞める事ができない。そんなジレンマ的な葛藤が被告にはあったのだろうか?

3日、3週間、3ヶ月と新人が仕事を辞めたくなる時期があると言う話は良く聞くのですが、そこを乗り越えてみな一人前になるみたいな話ですよね。
適性が無くても、繰り返し訓練する事で習熟度や熟練度が向上する可能性はあるのですが・・・
とは言え、ストレスでメンタルを病んでしまうような環境はとても、適性があるとは思えないので、ダメだと思ったら病む前に思い切って辞めるのも方法なんでしょうね。

だけど、職業に適性が無い事がこの事件の決定的な要因では無いとも思うんですよ。
適性が無いのは一つの要因ではあったと思います。
ですが適性が無い人は時間の経過によって、次第にその仕事から離れていくと思うんですよね。

結局、私が考えるこの事件の決定的な要因は、精神的に追い詰められた時にその問題を正当な方法で解決しようとしなかった事。
そして、その違法な解決方法を被告が実現可能な環境にあった事。
前回の記事でも書いてますが、ここだろうと思います。

でも、こんな事は身近なところでも良くある事だと思うんですよね。
仕事で追い詰められていくと、「退職していく人」と、「頑張って乗り越えた人」、「乗り越えられずに病んでしまう人」私の印象では、この3つに分かれるように思います。
で「乗り越えられずに病んでしまう人」になった後に、「退職する人」と「会社と調整して仕事の内容を変えて残る人」に分かれますね。
で、この事件では「乗り越えられずに病んでしまう人」になった後に、もう一度、「終末期の病院での仕事を選択してしまう」。
この判断が事件の直接のきっかけだと思います。

しっかりした会社などでは、「うつ病」での休職後の処置としては、復職プロセスが決まっていて、本人の意見を聞きながら医師の指導に従い、就業時間を短くして軽い仕事から仕事を再開していく事になるはずです。

しかし、被告は前の病院を退職してしまっているので、この復職プロセスを経由せずに、おそらく主治医の意見なども参考にしない状態で、終末期病院への就職を決めてしまったのではないだろうか?

もし、前の病院を退職せずに、復職プロセスを経て復職していれば、全然違った人生になっていたのではないか?と思うんですよね。

もし、被告に親しい友人がいて、「うつ病」で退職した事を知っていたら、終末期病院への就職は勧めなかったんじゃないのかな?
うつ病後のケアの問題も原因の一つにあったのかもしれませんね。

色々な状況や判断の誤りが重なって、この事件になってしまったのかな・・・と私は考えています。

控訴審の行方に注目しましょう。

参考リンク
神奈川県横浜市大口病院連続殺人事件その7(一審公判)
神奈川県横浜市大口病院連続殺人事件その9(二審判決刑確定)

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