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2021/12/07

神奈川県横浜市大口病院連続殺人事件その7(一審公判)

第5回公判まで
***初公判(10月1日)***
1)被告は「すべて間違いありません」と述べ、起訴内容を認めたとのこと。

2)弁護側は被告が犯行時に心神耗弱の状態にあったとして、責任能力の程度を争う姿勢を示したとのこと。

弁護側は、被告は15年5月に旧大口病院で働き始める前から抑うつ状態だったと説明。16年3月ごろには死亡した患者の家族から激しく罵倒されてショックを受け、欠勤しがちになり、睡眠薬を多量に服用するようになったと主張したとのこと。

被告の精神鑑定は2回実施された。起訴前の鑑定は、発達障害の一つの自閉スペクトラム症(ASD)の特性があったが、動機形成の遠因に過ぎないと結論付けたとのこと。

起訴後の鑑定では、事件当時はうつ病を患っており、統合失調症が発症し始めていたと判断された。弁護側は起訴後鑑定が信用できるとして「正常な思考能力が著しく低下していた」と主張したとのこと。

3)起訴状によると、被告は16年9月15~19日、点滴袋に消毒液「ヂアミトール」を混入させて、KAさん(当時78)=横浜市神奈川区=、NSさん(当時88)=同市青葉区=、HNさん(当時88)=同市港北区=を殺害したなどとされる。

4)検察側は冒頭陳述で、被告は旧大口病院で主に終末期の患者が入院する病棟を担当していた16年4月ごろ、容体が急変して死亡した患者の家族が医師と看護師を非難する場に居合わせ、「勤務時間中に患者が死亡すると責められるのでは」と不安を募らせたと指摘したとのこと。同年7月ごろから、自分の勤務時間外に患者を死亡させようと、患者に投与予定の点滴袋に注射器で消毒液の混入を繰り返すようになったとしたとのこと。

検察側は起訴前鑑定を根拠に完全責任能力があるとしたとのこと。

5)検察側冒頭陳述
1人目の被害者は、KAさん=当時(78)。28年9月15日、被告が興津さんを担当した際、KAさんが無断で外出し、被告が病院に連れ戻したことがあった。これが、殺害のきっかけになったとのこと。

6)検察側冒頭陳述
2人目の被害者は、NSさん=同(88)。被告は夜勤の際、NSさんに容体の悪化があったことを把握。夜勤中に亡くなれば、自分が家族に説明しなければいけないことを不安に思い、点滴の栓からヂアミトールを投与。その日のうちにNSさんは死亡したとのこと。

7)検察側冒頭陳述
3人目の被害者、HNさん=同(88)=に対しても、投与予定の点滴バッグ内にヂアミトールを混入。他の看護師に投与させ、殺害した。ほかの患者に投与予定の点滴バッグなどにも、ヂアミトールを混入したとのこと。

8)検察側冒頭陳述(当時勤務していた看護師の供述調書)
ヂアミトールの使用頻度は少なく、使い切るのに半年かそれ以上かかる。なぜ使いかけが2本もあったのか、看護師は『意味が分からなかった』という。同じ頃、院内の別の場所でも、封の開いたヂアミトールが発見されていたとのこと。

9)検察側冒頭陳述
29年、被告は重要参考人として取り調べを受けるが、犯人であることは申告しなかった。だが、自身のナース服などから消毒液の成分が検出されると、警察の取り調べで自供を始めたとのこと。
患者の点滴にヂアミトールを投与したことを認める供述をし、その後、母親にも電話で犯行を告白。逮捕に至ったとのこと。

10)弁護側冒頭陳述
28年9月に犯行に及び、その年の末にはPTSDと診断された。30年に逮捕された後、鑑定入院した際には、同じように入院していた患者の耳に洗剤を入れる問題行動を起こしたとのこと。2度目の鑑定入院中だった令和元年9月にも、便器に雑誌を詰め込んで部屋を水浸しにする問題を起こしたとのこと。同年12月には、収容されている横浜拘置支所内で「殺してやる」という幻聴により、壁を蹴り続けるなどしたとのこと。

***第2回公判(10月4日)***
証拠調べ
1)HNさんの点滴袋の異常を発見した際の経緯
「死亡したHNさん(当時88)の点滴が泡立っているのを看護師が見つけた。さらに看護師が保管してある点滴バッグを振ったところ、泡立ったために病院が警察に通報した」と事件が発覚した時の状況を明らかにしたとのこと。

検察側は、点滴バッグのゴム栓には複数回、注射針を刺したとみられる穴が開いていたことも明らかにしたとのこと。

別の報道では
看護師はHNさんの容体が急変した際に点滴袋が泡立っていることに気付き、「シャボン玉のような大きな気泡が充満していた。見たことのないものだった」などと証言したとのこと。

更に別の報道では
現場に居合わせた看護師から異変を知らされ、同病院に出勤した看護部長の供述調書では「通常は非常に小さな気泡ができてすぐ消えてしまうが、大きな気泡が多数出てきて消えなかった。40年の看護師業務で経験したことがなく、非常事態と思った」としたとのこと。

2)証人尋問(中毒の専門家)
消毒液が投与された時の人体に対する影響や亡くなった3人のケースについて説明したとのこと。
裁判長が、患者が亡くなったことについて終末期であることは関係していたかを聞くと、専門家は「致死量をはるかに超える量の消毒液が体内から検出された。 終末期は関係なく命に関わったのではないか」と話したとのこと。

***第3回公判(10月5日)***
1)証人尋問(死因などの鑑定にあたった医師)
死亡したKAさん(当時78)の体内から検出された消毒液の成分について、「致死量とみられる数値の10倍以上の濃度」と証言。死因について、「100パーセント、この物質による死亡」と指摘したとのこと。

残り2人の被害者の死因については、「元々の疾患の影響もありえる」としましたが、「死期を早めたことは間違いない」としたとのこと。

2)検察側の証拠調べでは被告が使用していたロッカーや看護用のエプロンなどから消毒液の成分が検出されていたことが読み上げられたとのこと。

3)元同僚看護師の調書
「夜勤の時、被告が消毒液を持ってナースステーションを出て行くのを見て、気持ち悪くなりました。夜中に消毒液を持ち出すことはないから」とのこと。

***第4回公判(10月6日)***
1)証人尋問(元同僚の看護師)
被害者の1人、NSさん(当時88)の容体が急変した際、被告が「さっきまでは大丈夫だったんだけど」と、独り言のように話していたと証言したとのこと。

普段の被告については、おとなしい感じの人で自分の業務は全うしていたと話したとのこと。
別の報道では
「遅刻や無断欠席はなく、まじめに勤務していた。 特にミスもなく仕事をまっとうしていた」と話したとのこと。

2)証人尋問(被告の父親)
遺族に対し「大変申し訳ございませんでした」と謝罪。 逮捕直前、犯行を自供したと聞いた母親が平手打ちし、被告が泣き崩れていたことや、両親に対して「お世話になりました」と話していたことを明かしたとのこと。

別の報道では
その晩は、県警が用意したホテルに親子3人で泊まった。「なぜ、こんなことをしたの」。母親が頬を平手打ちし、抱きしめると、被告は泣き崩れたとのこと。
被告は「患者の家族から強い言葉を向けられるのが怖くて、事件を起こしてしまった」と話したとのこと。翌朝には、「お世話になりました。すべて話してきます」と両親に伝え、迎えに来た捜査員とホテルを後にしたとのこと。

更に別の報道では
被告の行動について父親は「小さい頃のXXと違う。精神が破壊されたのかと思った。こんなことをする子じゃないと感じた」と話したとのこと。(XXは被告の名)

3)被告の母親の調書の朗読
事件の約3か月前、被告は「大口病院を辞めようかな」と、母親に電話で相談していたという。私が引き留めなければと、申し訳なく思う――との調書も朗読されたとのこと。

別の報道では
事件の数カ月前に同僚のエプロンが切り刻まれたことがあり「怖いから大口病院を辞めようかな」と、被告が母親に相談していたことが明らかにされたとのこと。

***第5回公判(10月11日)***
被告人質問
1)弁護側から終末期の患者が多い大口病院での勤務について問われると、被告は「患者が亡くなることが多く、肉体的にもつらかったし、気持ちがしんどくなった」と答えたとのこと。

また、「大口病院を辞めたいと思ったことはあるか」と問われると、被告は「はい」と答えたうえで、「看護師長や院長に相談しやすい環境ではなかった」と話したとのこと。

別の報道では
大口病院の前に勤務していた別の病院での状況を聞かれた被告は、「患者の容体が急変した際にうまく点滴ができず、患者の家族に責められて怖いと思った」と話し、2014年頃、うつ病で休職したと話したとのこと。

大口病院に転職した後に、終末期医療の患者が亡くなった際の気持ちについては、「自分の気持ちに折り合いがつけられず、つらかった」「できることができず申し訳なかった。精神的にも肉体的にもきつかった」などと話したとのこと。

更に別の報道では
被告は初めて看護師として働いていた病院で、「車いすで入院した患者さんが歩いて退院した際にやりがいを感じた」と話したとのこと。

2)犯行の理由については「私の勤務中に患者さんが亡くなるのを避けたかった。 ご家族から責められるのが怖かった」と話したとのこと。

別の報道では
「勤務中に患者が亡くなるのを避けたかった」と話し、点滴への混入により自分が非番の時に患者が死亡するよう仕向けたという趣旨の説明をしたとのこと。

更に別の報道では
事件の約5か月前、入院中に亡くなった患者の家族から、看護の仕方が悪かったせいだと叱責され、恐怖を感じたことが大きなきっかけになったとし、「自分の担当時間に患者が亡くなるのを避けたかった」と話したとのこと。

3)弁護士から消毒液を混入させる際、ためらう気持ちはなかったか聞かれ、「今考えると本当に恐ろしいのですが、ためらう気持ちはありませんでした」と話したとのこと。

別の報道では
殺害を後悔しているか問われ、「申し訳ないが、当時はしなかった」と語ったとのこと。

4)被告は途中、法廷内の遺族の方を向き「大切なご家族の命を奪ってしまい、申し訳ございませんでした」と述べ、頭を下げたとのこと。

別の報道では
「決して許してもらえるとは思いませんが、心からおわび申し上げます」と頭を下げ謝罪したとのこと。

5)被告は事件前に不安のために睡眠薬を飲んでいたことや、自分の仕事が不十分で、同僚から悪口を言われていると思っていたと話したとのこと。

別の報道では
大口病院で勤務していた頃、気分の落ち込みや不眠から「睡眠薬を医師の指示より少し多く飲んでいた。精神的にも肉体的にもつらかった」と話したとのこと。

6)3人目の被害者、HNさん(当時88)を殺害しようとした際には、段ボ-ル箱にあったおよそ10個の点滴袋に無差別に消毒液を入れ、消毒液入りの点滴袋が誰に割り当てられるかも認識していなかったと説明したとのこと。

7)最初に殺害したとされる女性は膝のけがで入院していた。被告は点滴袋に消毒液を混入した理由について「無断で病院を抜け出して、けがをされたら自分が責められると思った」と説明。亡くなったと聞いたときには「当時はほっとしたという気持ちが大きかった」と述べたとのこと。

こんなところですね。
記事が長くなりそうなので、ここまででいったん区切りますね。
ここまでの印象を書くと、ある種の構造的な問題があるのかな?とか、遺族はもちろんだけど、被告にも、ある種気の毒な部分があるのかな?などと感じています。
直接の原因は事件の5ヶ月前に遺族から叱責された事が恐怖になっている。
そして患者が死亡した時、担当の看護師が遺族に経緯などを説明する事になっているので、自分が担当でない時に死亡すれば、この説明する役から解放されると言う事ですね。

ただ、この説明する役は被告人が専任していたわけではないので、別の看護師も行っていたはずです。

家族が死亡して、感情的になっている時に、遺族と話しをするわけだから、中には心ない言葉を出す遺族もいるでしょうし、程度の差はあるものの誰もが嫌がる仕事だったと思います。

病院でなくても、クレーム対応と言うのは嫌な仕事ですよね。

この大きなストレスになる仕事に対して、組織(病院)として何らかの対策を行うべきだったのではないか?と言うのはありますね。
私は医療関係者でも病院の関係者でも無いので、勝手な意見を書かせてもらうと
大口病院でどのようなやり方をしていたのか?詳細がわかりませんが、もし担当者1人で説明していたのであれば、看護師2人で行うとか、これで「責められているのは自分だけではない」とか「自分一人の責任ではない」と言う効果とか、終わった後に二人で会話する事で互いにケアするみたいな効果も期待できたかな?とかね。
まーただでさえ、人が足りないのに、直接医療に関係ない作業に2人も使う事ができないと言う病院側の事情もあるかな?とは思うのですが・・・

他には専任で担当者をつけてしまうと言うのもありますね。とは言え、今度はこの専任者にストレスが集中してしまうので、そのストレスに耐えられる人材を見つけられるのか?と言うのが問題かもしれません。

ただ、この事件は、動機とそれを行う手段が二つそろってしまった事が原因だと考えています。
小規模な会社や組織で、経理担当者が一人で全ておこなっているようなところで、横領事件が時々おきますが、これと構造が良くにていると思うんですよね。
そう、自分がやってもバレないと思うと、犯行へのハードルはかなり低くなってしまいますよね。

動機があっても、犯行ができないような仕組み(環境)にできれば、事件を防ぐ事ができたのかな?とぼんやりと考えています。

そして、もう一つ感じているいるこの事件の原因は、被告の適性です。
以前の病院でも「うつ病」になって休職している点を考えると、本当にこの職種に適性があったのか?と言うのは疑問ですね。

子供の時から、あるいは就職が近づいてきた学生の時期にどの職業に就こうかと誰でも考えるわけで、人それぞれの理由で職業を選ぶと思います。

中には子供の頃からの憧れの職業に就くために、長期間努力してきた人とか、逆に、就職できるところを探して、就職する人などもいると思います。

どちらが良いかはわからないけど、いずれにせよ就職は今風に言えば「ガチャ」ですよね。
就職した仕事が本当に自分に適性があるのか?と言うのは、やってみないとわからないわけです。

被告も看護師になる為に看護師の学校に行って、長時間、努力して看護師になっているんですよね。

それで、再就職とうか転職先が終末期の病院だったと言うのは、被告本人としては、どういう考えで選択したのだろうか?

終末期だから「楽な仕事」とは考えていないと思うのですが・・・

ここで、この仕事を選択しなければ、この事件は起きなかったと思うんですよね。
この職種で「楽な仕事」があるのか?わかりませんが、そういった楽な病院や職場を探す方法もあったと思いますし、医療の知識を生かした別の業種や職種への転職と言うのもあったと思うんですよね。

まー、憧れの職業、好きな仕事だから、辞めたくないと言う気持ちもわかりますし、これだけ努力したのに、他の職種に転職と言うのも感情的に難しいとも思いますが、どこかで決断が必要だったのかな?
就職ガチャに失敗したと言う点では、被告人も気の毒な人なのかなと思います。

次回に続く

参考リンク
神奈川県横浜市大口病院連続殺人事件その6(7月13日以降報道)
神奈川県横浜市大口病院連続殺人事件その8(一審判決)

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