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2022/08/15

福岡県福岡市15歳少年女性殺害事件その2(一審判決)

***初公判(7月6日)***
1)少年は事件当時15歳の中学生で、起訴内容について「間違いありません」と認めたとのこと。

2)検察側は冒頭陳述で、少年は小学生の頃から周囲への暴力を繰り返し、少年院を仮退院した後に福岡県内の更生保護施設に入ったが、抜け出したと説明。行き着いた商業施設で、性的行為目的で女性の後をつけ、殺害したと指摘した。事件の悪質性や少年院を仮退院した2日後に事件が起きたことなどを踏まえ、「保護処分は許容できない」などとして刑事罰を科すべきと主張したとのこと。

3)弁護側は少年は幼少期から親元を離れ、病院や児童自立支援施設などを転々として暮らしたとし、「家族から暴力などの虐待を受け、不適切な養育環境で育った。少年院でも適切な指導は行われなかった」と訴えた。その上で、「個別的で効果的な指導を行う少年院で、長期的で根本的な治療がされないまま社会復帰すれば、一層孤立し、非行を繰り返す可能性がある。刑罰を与えるべきではない」と反論したとのこと。

4)起訴状などによると、少年は20年8月28日夜、福岡市中央区の商業施設「MARK(マーク) IS(イズ) 福岡ももち」内の店舗で包丁2本を盗み、その後1階女子トイレで、同市の女性の首などを包丁で刺して殺害。さらに逃げる際の盾にしようと、施設内にいた女児(当時6)を包丁で脅したなどとされるとのこと。

5)検察側
幼いころから親族に虐待を受けていた少年は、小学生の時に友人の首を絞めるなど暴力問題をたびたび起こし、これまでに精神病院や医療少年院など施設を転々としていたとしました。

犯行の動機は「性的目的」で、トイレで刺した女性の傷は10カ所以上、深いもので14センチまで達していたとしているとのこと。

検察側の冒頭陳述などによると、少年は入所翌日に施設を抜け出し、コンビニで出会った若い男性に「お金に困っており、泊めてほしい」と何度も頼み込んだ。男性からは断られたものの、現金3千円を渡してくれたとのこと。

翌朝、そのお金で始発のバスに乗って福岡市・天神に向かい、偶然見かけた別の女性の後をつけているうちに事件現場の商業施設に着いたとのこと。

商業施設では、キッチン用品店で包丁2本を万引し、男子トイレの個室で刃の部分にトイレットペーパーを巻き付け、ズボンに差し込んで隠した。4階のゲームセンターに立ち寄り、エスカレーターで1階に戻った際、友人と一緒に買い物に来ていた被害者の女性を見かけ、「後を追いかけることにした」とのこと。

6)弁護側:少年が通っていた小学校の担任教諭の供述書
「何とかまっとうになってくれないか、必死に接していました。事件を聞いていつかこのような悲惨なことが起こるのではないかと思っていた。凄惨な事件を起こし、被告に関わってきた一人として責任を感じる。学校教育の限界を完全に超える存在だった」とのこと。

別の報道では
弁護側は小学4年の時に担任だった教諭の供述調書を読み上げた。少年は小学校で他の児童の首を絞めたり、教諭に「殺すぞ」と暴言を吐いたりするなど、問題行動を毎日のように繰り返したとのこと。

教諭は「(少年の家族は)問題行動に関心が薄いなど、取り巻く環境はとても厳しかった」とも指摘し、「可能な限り指導したつもりだが、学校教育の限界を超えた子どもだった」と述べたとのこと。少年は精神科病院に入院したこともあったとのこと。

更に別の報道では
「少年は、父・母・姉・兄との5人家族」
「少年は家庭環境に問題があった」
「父親からは電話でのクレームが度々あり、『お前が来い!お前の対応が悪いから子供が言うこと聞かないんだ!お前を辞めさせてやる!』と言われた」
「母親は、自分で家事ができない、料理が出来ない」
「祖父は学校運営協議会の会長でクレーマーだった」
「少年が車のドアに挟まれた時、『先生のせいにして、カードを買ってもらう、ケガが証拠になる。おじいちゃんに言って先生をやめさせる』と言うことがあった」
「少年は人間関係を冷静に見ることができる」

***第二回公判(7月7日)***
被告人質問
1)検察側
少年は商業施設の女子トイレに女性とその友人の後を付けて入り、女性と目が合った時には「どんな反応をするか興味がわいた」ので、包丁を突きつけたと説明。包丁は「自殺しようと思って盗んだ」と述べたとのこと。

トイレに入った理由は、検察側の尋問では「女性の友人に性的暴行をする意図があった」と捜査段階で供述したことを認めた。

2)弁護側
トイレに入った理由は、弁護側の質問では「取り調べが面倒で自暴自棄になり、性的な目的と言った」と説明。入った理由は「よく分からない」と答えたとのこと。

被害者については「自分の勝手な行いで、将来のことなど、いろんなことを奪ってしまって申し訳ない」と謝罪。

遺族への謝罪の言葉を問われると「特にないです」と2度繰り返し「更生したい気持ちはすごくあるが、簡単にできないと思う」とも述べたとのこと。

トイレで女性に刃物を向けた時、女性に自首を勧めらた。
この時「母親と姿が重なり、怒ってしまいました」とのこと。
「少年院を出るとき、引き取り手として母のもとへ、と話が進んでいたのに、直前になって断られて、期待した気持ちが強かったので、その気持ちが重なった」とのこと。

3)被害者遺族の代理人弁護士
少年に更生の意欲を問うと「多分、できないだろう。人は簡単に変われない。クズはクズのままだ」と述べたとのこと。

代理人弁護士は、少年が送致・移送された鹿児島家裁の少年審判で「1人ぐらい死んでも大したことない」「他人に関心が無かった」などと遺族の前で発言していたことも明かしたとのこと。

4)裁判長
少年は事件後、被害女性の遺族に宛てて2回、謝罪文を書いたといいますが、送ってはいなかった。

なぜ手紙を書いたのか?
「そうした方がいいかなと思って書いた。形として謝罪文を残した方がいいと思って書いた」と述べたとのこと。

***第三回公判(7月8日)***
弁護側証人尋問
1)罪を犯した少年について少年院送致の必要性などの調査を行う、少年鑑別所に勤める精神科医

少年に対して行われた心理鑑定書を読んだという医師は、少年の今の状態について「刑罰が刑罰にならず、被害者を思うには到らない」と述べたとのこと。

そして「親族から受けたとされる虐待のトラウマに向き合えるよう、治療を受けてから初めて反省できる」とし「いろんな刺激を与えて内省させられるのは更生施設である少年院」と証言したとのこと。

***第四回公判(7月12日)***
弁護側証人尋問
1)少年の心理鑑定をした山梨県立大の教授(臨床心理)
教授は、少年が兄から日常的に暴力を受け、母親から「死ねばいい」と言われて育ったことを挙げ、「複雑な成育環境のせいで、人の気持ちを考え、信頼することができない」と説明した。少年は保育園や小学校で周囲に暴力をふるい、10歳で児童自立支援施設に入所。その後も問題行動を繰り返し、少年院に入ったとのこと。

教授は少年が「人との温かい関係を求めながらも拒否する葛藤状態にあった」と分析。「施設も少年を腫れ物に触るような扱いをし、適切な治療をしてこなかったのではないか」とし、少年には、保護処分による「治療的養育」が必要だと述べたとのこと。

別の報道では
教授は証言で、少年が「(家庭内で)日常的・慢性的に暴力が吹き荒れていた」ほどの虐待を受けたトラウマ(心的外傷)で「共感性や罪悪感が欠如している」と指摘。自分が被害者との感覚があり、少年が「人を殺すことを何とも思わない」などと説明していたことも明かしたとのこと。

2)検察側証人尋問
教授は、少年を検察官送致(逆送)とした鹿児島家裁決定が「(少年院では)問題性の改善が著しく困難」と指摘した点について「(決定は)間違っている」と反論。少年は少年院の入所歴があるが、教授は「これまでトラウマに対する適切な処置がされていない」と証言したとのこと。

3)検察側弁護側どちらの証言か不明
鑑定の結果について「家庭環境に問題があるのだろう。40年以上虐待を見てきた私から見ても信じがたい内容の虐待行為が行われていて、極めて不適切な養育環境」だと述べたとのこと。

その上で専門家は、「少年はこれまで精神的な診療や福祉的な手当を十分に受けていない」「治療的な関わりが妥当で更生の可能性はある」などと話したとのこと。

教授は面会で少年が「自首しておけば良かった」と涙を流したと明かし、更生の可能性を示唆したとのこと。

***論告求刑公判(7月15日)***
1)検察側は「卑劣かつ冷酷、残虐な態様で、まれに見る凶悪な犯行だ」として少年法が定める不定期刑の上限となる、懲役10年以上15年以下を求刑したとのこと。

論告で検察側は、少年が盗んだ包丁を手に性的目的で女子トイレに入ったが、被害者の女性に自首を促されて逆上し、14カ所を刺したと指摘。商業施設内を逃走するため、途中で6歳の女児に馬乗りになり、包丁を突きつけて女児の母親を脅したとして「徹頭徹尾、自己中心的で自分勝手な動機だ」と指弾したとのこと。

公判で少年が被害者の遺族のことを「一切考えたこともない」などと述べたことに触れ「現時点に至っても罪に向き合っていない」と批判。人が多く行き交う商業施設内で起きた事件で「社会に与えた不安も極めて大きい」とし、遺族の思いや同種事件も踏まえて求刑したと説明したとのこと。

2)弁護側は「再犯防止のためにも適切な治療が必要だ」として家裁送致のうえ、第3種(医療)少年院送致などの保護処分を求めたとのこと。

弁護側は少年が過酷な家庭環境で虐待を受けて育ったトラウマ(心的外傷)が問題行動につながっていると主張。これまで信頼できる大人がおらず、被害者の女性に近づいたのも「情緒的な関わりを漠然と求めていた」と反論したとのこと。

地裁の依頼で心理鑑定をした専門家の見解を引用し、過酷な生い立ちから少年には被害者感覚があり「刑務所に入れれば、更に被害感情を強める可能性がある」と強調。「医療少年院で治療的養育を受けさせるべきだ」と訴えたとのこと。

3)最終意見陳述?
最後に、裁判長から「何か言いたいことありますか」と問われた少年は「特にないです」と答えたとのこと。

***判決公判(7月25日)***
1)福岡地裁は求刑通り懲役10年以上15年以下の不定期刑の判決を言い渡した。

2)判決理由
裁判長は「更生の可能性が高いと見ることは困難」と指摘したとのこと。

「長期間複数の施設や少年院で処遇を受けたにもかかわらず、粗暴傾向が改善されないまま残虐な事件を引きおこしている。保護処分によって更生する可能性が高いとみることは困難である」

また、保護処分とするのが許されるかについては、「見ず知らずの被害者に対する通り魔的な、非常に残虐で凶悪な犯行で、社会に与えた影響も大きい」「人格的な未熟さや成育歴などを理由に保護処分を受けることは社会的に許容しがたい」と述べ、少年に対し懲役10年以上15年以下の不定期刑判決を言い渡したとのこと。

3)裁判長の説諭
あなたはこの法廷で「人間、クズはクズのままで、変わることはないと思う」と言いました。一方で「すぐに暴力を振るう傾向を変えたい」とも言いました。あなたは変わらなければなりませんし、変わりたいという言葉も本心だと思います。刑務所にいる長い時間の中で、被害者や遺族の痛みに正面から向き合い、心からの謝罪の心を持てるようになることを願っています。
少年は無言のままだったとのこと。

***補足***
<少年の経歴>
小3 他の児童の首を絞めるなど → 精神科病院に入院
小4 当時の担任「少年は学校教育の限界を完全に超えていた」
小5 兄とのけんかに包丁を使う → 児童自立支援施設など転々
中1 少年院に入所
中3 少年院を仮退所 → 更生保護施設を翌日脱走

***刑が確定(8月8日)***
少年側と検察側いずれも期限の8日までに控訴せず、1審の懲役10年から15年の不定期刑が確定した。

こんなところですね。
難しい事件ですね。
少年の家庭環境に問題があるのは理解できます。一方で判決理由の中で「長期間複数の施設や少年院で処遇を受けたにもかかわらず、粗暴傾向が改善されないまま残虐な事件を引きおこしている。保護処分によって更生する可能性が高いとみることは困難である」と言っているのも、理解できます。

いままで、何度も更生教育を受けてきて、結局、こんなひどい事件を起こしてしまったのだから、更生は無理ですよね。と言う事ですね。
一方の弁護側は、トラウマの治療をしないと問題の解決にならないと主張してました。
判決はこれを否定したわけですね。

弁護側の主張も理解できるのですが、結局、ここまで状態が悪化する前に「治療するべきだった」と言う事なんですよね。
その意味では、これまでの更生教育に問題が無かったのか?と言う検証が必要かと思います。

それに、根本原因の育成環境の問題をどうするのか?ですよね。
過去を変える事はできないのですが・・・小学校時代に育成環境に問題がある事は関係者は分かっていたはずです。
児童相談所は何か対応をしていたのだろうか?
結果的に小5で自立支援施設へ送られるわけですが、これが遅すぎたのではないだろうか?

正直なところ、「親ガチャ」でハズレを引いた少年には同情できる面もあると思う。
これまで適切な治療を受けれなかった事も同情できる。
しかし、だからといって、罪の無い人を理不尽な理由で殺害してしまった罪を無かった事にはできないと言う事ですね。

教育が難しいのは、子供だけ教育してもダメで、その親も教育が必要なんだけど、それには何世代も時間が必要と言う事ですよね。
「教育は文化の伝承」と誰かが言ってましたが、日本と言う国を良くするには根気強く教育していくしかないのでしょうね。

そういえば、発達障害の話は公判では触れられてなかったのかな?情報が無かったと思います。

亡くなった女性のご冥福をお祈りします。

参考リンク
福岡県福岡市15歳少年女性殺害事件
反省させると犯罪者になります
少年犯罪の深層・・・家裁調査官の視点から
少女たちの迷走-児童自立支援施設からの出発

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コメント

この事件は、当然、少年が一番悪いですが、そんな危険な少年を詳しい経緯は分かりませんが逃がしてしまったのも重大なミスですよね。しかも、そんな危険な少年が逃げてるにも関わらず、暫くは何も周囲にも知らせるような行動もしてなかったんですよね。まさかそんな少年が居るとは何も知らずに被害に遇った女性が気の毒過ぎに思いますね。もし、私が被害女性の身内だったら、そこにも怒りが行くと思いますがね。以前にあったペルー人の男を逃がしてしまい周囲に直ぐに知らせないで、連続殺人を起こしたのと、規模は違いますが似たような状況のケースだったように個人的には思います。

投稿: 南こうさつ | 2022/08/15 13:46

根本問題として裁判官は「長期間厚生施設で更生処遇を受けたにも拘わらず改善していない=更生は不可能」という事で刑務所行きになったわけですが、

そもそも少年院も刑務所も「更生処遇」に人と金が十分に回っていない現状があります。

ゆえに再犯率が高いままだったり、少年院や保護施設から脱走して事件を起こすみたいな事件が本件以外にも起こったりするわけです。

国民の「更生」に対する関心が薄い=悪いやつは閉じ込めて置けば良い程度の認識しか大半の人にない事が遠因の1つだと私は思っています。確かに、どうにもこうにも更生の余地がないクズもいるとは思いますが、そもそも更生施設がまともに機能していない、というのが大前提にあって
更生できるはずの人も、ろくな更生処遇を受けれず社会と隔離されているだけ、というのが問題なんですよね。
本当に更生させて真人間にするには専門の医者やカウンセラーの十分な治療行為が必要なわけですが、そこに十分な金が回っていない。
特に刑務所においては出所間際に少し行われるだけで継続的に治療行為が行われるわけではないので、よりその傾向が高まる。

「更生事業」は別に金を生むわけではないので、犯罪者の更生に何故そこまで手間暇と金をかけなければならないのだ、という国民感情も後押しして、
なおざりになっているのが、こういった犯罪や再犯を招く原因(一因)だと私は思っています。

政治家もこういった事にはほぼ無関心だし
マニフェストに入れる人も皆無ですしね
国民も目先の税金がどうこうの方が優先事項でしょう
金にならない、票集めにもならない
だから予算を割かない
結果、犯罪者は閉じ込められるだけで
期間がくれば何のアフターフォローもなく
野に放たれる。
いつかここに本気で人と金を回す事を考えないと
治安は悪化する一方でしょうし
同じような悲劇は繰り返されるでしょうね
悲しい事です。

投稿: | 2022/08/19 12:42

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