白金高輪駅硫酸事件その8(一審公判)
判決は懲役3年6カ月(求刑:懲役6年)
補足
この公判では被害者秘匿の措置が取られ、被害者らの氏名は法廷で明かされず「Aさん」「Bさん」とされたとのこと。
被告は2つの罪で起訴されている。1つ目は、去年4月、大学の部室において、後輩の男性(以下「Aさん」)の両腕をつかんで転倒させ、顔面を拳で1回殴った暴行罪。2つめは、白金高輪駅の構内で、Aさんとは別の後輩の男性(以下「Bさん」)に硫酸をかけて、全治3カ月のけがをさせた傷害罪。
***初公判(22年9月20日)***
1)静岡市の大学生・男性被告(26)は、東京メトロ・白金高輪駅で知人の男性に硫酸をかけ、顔などに全治3ヵ月の重傷を負わせたとして傷害罪の罪に問われている。被告は起訴内容について「間違いありません」と認めたとのこと。
2)弁護人は量刑について審理してほしい旨を述べた。
弁護側は、被告は大学で入会した映画研究会で男性らと知り合い、趣味や容姿などをいじられたため心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負ったと主張。その後、大学を休学したが、自閉スペクトラム症の影響で「(男性らが)自分を探し出して殺そうとするかもしれない」と考えるようになり、襲撃に備えるために硫酸を準備したと訴えたとのこと。
別の報道では
弁護側は、「被告が大学時代、被害者らから個性的な趣味や性格、容姿などをいじられたり、からかわれることもあった」などと、事件の背景を説明したとのこと。
3)検察側は冒頭陳述で、大学で同時期に入ったサークルで知り合い、1学年下だった被害者が友達口調で話すことに対し、被告が「先輩と後輩の秩序を守ってほしい」と不満を伝えていたと説明したとのこと。
また、裁判では被害者の男性の「人生設計が大きく狂った。私の人生に二度と関わってほしくない」という供述調書も読み上げられたとのこと。
4)検察側は冒頭陳述で「レシート裏にやることリストを作り、『硫酸をかける』などと記入していた」ことを明らかにしたとのこと。
被告の自宅から見つかったというコンビニのレシートの裏には「やることリスト」、「硫酸をかける」など、犯行に至るまでの“やること”が書かれていたとのこと。
5)検察側は、被告が大学のホームページなどから男性の就職先を特定し、事件当日には男性の会社の周辺を数時間徘徊していたことを指摘したとのこと。
***補足***
これだけだと、事件の経緯が分からないので、補足します。
冒頭陳述や検察側請求証拠によれば、AさんとBさんは、被告が琉球大学農学部2年生の頃に入会した映画研究会の同期。だが学年は、被告よりも1つ下だった。
入会後に被告が先輩であることに気づいたAさんは「敬語で話したほうがいい?」と聞いたが「別にいいよ」と言われたため、タメ口で交流していたとのこと。
日本人の父親と中国人の母親との間に中国で生まれた一人っ子の被告は、2歳の頃に家族で来日したとのこと。
東日本大震災後に母親の意向で、再び中国に戻ったが、進学のために日本へ。中学生の頃から忘れ物が多く、高校に進学したものの、適応できなかったことから、中国に戻り、カウンセリングや漢方による治療を受けたのち、再び日本の高校に通い、琉球大学に進学したとのこと。
被告の父親は彼が高校生の頃、既に病死しており、映画研究会に入った翌年、母親も乳がんで亡くなった。その後、琉球大学を退学し、実家に戻り、静岡の大学に編入学する。(事件はその翌年)
母親が亡くなった年の夏の日の夜、被告は実家の前で“スマホを操作する若い男”を見かけたとのこと。その後、片付けができていない家の状態について叔父から、このような状態だと「不審者が入ってくる」と言われた。これをきっかけに、被告は被害者らのことを思い出したとのこと。(叔父は両親亡き後の後見人で月一度程度、被告の様子を見に来ていたとのこと)
そして「不審者を被害者らと結びつけ、被害者らが自分を殺しに来るかもしれないと不安に思うようになり、真意を確認しようと思った」とのこと。
被告はBさんにLINEで「泊めてほしい」と連絡するが、Bさんは卒論の真っ最中だったことや、被告からの連絡が真夜中だったこと、被告のLINEに「先輩と後輩の秩序を乱さないでほしい」などとも書かれていたことなどから「他を当たってください」と返信し、被告のLINEをブロックしたとのこと。
21年4月、映画研究会の部室で再会した。被告は、Bさんの居場所などを聞き出そうとしたが、Aさんは取り合わなかったという。そこで被告は、「おまえ、1年生の時の態度悪かったよな。土下座で謝れ」などと言い暴行を加えた。これが1つめの事件。
この後、AさんからはBさんの所在は聞き出せなかったものの、大学のホームページなどから、Bさんの就職先を特定した。被告の自宅から見つかったレシートの裏には「やることリスト」が書かれていた。その一番目に書かれていたのが「硫酸をかける」だったとのこと。
事件1カ月前の21年7月、被告はBさんと接触。BさんはAさんから暴行事件のことを聞いていたのでタクシーで逃げようとしたが、被告はタクシーにも乗り込んできた。被告は「自宅に来たか」などと聞くもBさんは否定。話をまともに取り合ってもらえなかったため、「Bさんに対する不安や恐怖感が一層高まった」とのこと。
この1ヶ月後に白金高輪駅での硫酸事件が起きます。
弁護側は、被告が自閉スペクトラム症とPTSDと診断されており、これらが事件に影響したと主張したとのこと。
事件の動機は「被害者らが自分を殺しに来るかもしれないという不安」にあるようですね。
***第X回公判(22年10月18日)***
被告人質問
<弁護側>
硫酸をかけた理由について弁護側に問われると「殺すことなく不快感を与えられる認識だった」と述べた。
<検察側>
検察側が硫酸の危険性を指摘すると「分からなかった」と述べた。
検察官はパソコンから「アシッドアタック」「濃硫酸・希硫酸 違い」「硫酸 顔」といった検索履歴が見つかったと指摘。それでも被告は「詳しくは覚えていない」と答えた。
<裁判長>
「理科の授業で危険かどうか教わった記憶はないか」と問われると「どのように危険か具体的には聞いていません」と答えた。
裁判長:危険な物質であることは?
被告:硫酸が危険とかは聞いたことがなかった
<不明>
1)被告は男性に硫酸をかけた時のことを問われると「二度と関わらないで欲しいという警告の思いだった」と述べた。
2)被告は「硫酸が危険なものとは知らなかった。かけられると腫れたり、ヒリヒリして不快感を感じる程度のものだと思っていた」と述べた。
***第X回公判(22年10月20日)***
証人尋問:被告の精神鑑定を担当した医師
医師は「被告に刑事責任能力に問題はない」と判断している。そのうえで犯行当時、自閉スペクトラム症とPTSDを有していたと診断したとのこと。
これらの影響で一つのことに固執する傾向があり、ため込んだ感情を爆発することがあるとのこと。被告の場合は「AさんやBさんが家に来たのか確認したい」という思いにとりつかれたことになるとのこと。
またPTSDにより、過去に殺されそうになったAさんやBさんへの“おびえ”が強い状態だったとのこと。そのような状態で、Bさんに直接会った被告は、「家に来たかどうか」を確認したが、Bさんが「しらばっくれた態度を取った」と誤解したとのこと。
その結果、「何かされるかもしれない」という思いが高まり、こうした“おびえ”を排除するために、硫酸事件を起こしたと指摘したとのこと。
また、「今は落ち着いているが、AさんやBさんへのおびえが癒えているか分からない。誰かサポートする人がいないと、同じような事件や社会問題を引き起こしかねない」とも証言したとのこと。
***論告求刑公判(23年1月11日)***
<検察側>
検察側は論告で、被告は高濃度の硫酸を自作して、職場から出てくる男性を約3時間待ち伏せしたと指摘。男性の顔などに残るケロイドの後遺症は一生にわたるとし「被告の刑事責任は重い」とし、懲役6年を求刑した。
<弁護側>
護側は「被告は内省を深め、被害弁償もしている。社会内で更生の道を歩ませるべきだ」と主張した。
別の報道では
弁護側は対人関係が苦手な発達障害の影響もあって被害者らのからかいの対象となり、不安や恐怖心を解消するため事件に及んだとして、執行猶予付き判決を求めた。
<被害者の意見陳述?>
被害者の心情を代理人弁護士が読み上げ、「今も後遺症に苦しみ、腕などにケロイドの痕があって真夏でも半袖になることができない」「厳しい罰を与えてほしい」と訴えた。
***判決公判(23年2月28日)***
1)東京地裁は2月28日、懲役3年6カ月の実刑判決を言い渡した。
2)裁判官は2月28日の判決公判で「相当なダメージを与えようという強固な意志に基づいて犯行を計画し実行したと認められる上、自らの行為の違法性を十分に認識していた」と指摘し、被告に懲役3年6カ月の実刑判決を言い渡したとのこと。
3)判決の理由について「相当なダメージを与えようという強固な意志に基づいて計画し実行した、かなり悪質な犯行」とした上で、公判で「被害者と二度と接触しない」と述べ、被害弁償の一部として800万円を支払うなど慰謝の努力がみられること、また、更生支援計画が策定され、親族による支援なども見込まれることなどを考慮したとのこと。
こんなところですね。
まずは第一印象として、求刑が懲役6年で、判決は懲役3年6ヶ月と、求刑も短いし、判決はさらに短い印象はありますよね。
つまり、刑が軽い印象です。
まー、傷害だけで半身不随になるような重度の後遺症も無いし、賠償金も支払っているとは言え、求刑が6年ですからね、もし賠償金を支払ってなかったとしても、最長でも懲役6年なんだと思うと、被害者側からしたら、「そんなはずない」と言う事になると思います。(私なら感じると思う)
でも、法律的には正しいのでしょうね。
どの事件でも、罪と罰のバランスが気になるけど、この事件については、これで良いのか?と思いますね。
まーこのあたりは法律の専門家にお任せするしかないのでしょうけど。
さて、別の視点でこの事件を見ると、被害者側からすれば、「なぜこうなった?」と言う思うが強いと思うんですよね。
結局のところ、動機は「大学時代のイジリ」への反感(恨み)と不審者の不安ですよね。
特に「不審者の不安」は、被害者には全く関係が無い事なので、「どうしてこういなる?」と言う事でしょ?
大学時代の「イジリ」にしても、悪意があったとは思えないですし、「タメ口」の件も本人に許しを得ての事だから、被害者側としては、「悪い事」とは認識してないと思うんですよね。
何が言いたいかというと「ある日、突然、昔の知り合いが自分を襲いにくるかもしれない」世の中なんだなと言う事ですね。
この事件を被害者側で予測して防ぐ事はかなり難しいですよね。
Aさんの傷害事件があったので、被告が怪しい危険な人物と言うのはBさんにも、Aさんから伝わっていたようですが、それでも、防げませんでした。
私は以前から書いてますが、悪意を持った犯人の犯行を止める事はできないと思っています。
守る側は全ての攻撃を防がないといけないけど、犯人はただ一度、攻撃を成功させれば良いだけですからね。
この手の事件では毎回書いてますが、犯人の側で事件を防ぐ方法を実行しないと、事件は防げないと思うわけです。
思いつく方法としては二つ
1)本人が自分の特性(自閉スペクトラム症)を理解して、認知療法などを行う。
問題は、自分で自分自身の特性を理解する機会があるのか?と言う点です。自分で自分がそうかもしれないと判断できれば良いですが、ちょっと難しいのではないか?と思っています。特に、普段一緒に生活する家族が居ない独居状態だったり、社会生活が研究などで他者とのコミュニケーションが少ないような生活環境では、他者から指摘される事も無いですよね。それに、被告が行き着けの喫茶店のママさんも、被告については「優しい子」として評価していて、短時間の接触時間では、被告の特定に気付くのは難しいと思います。
まー、そもそも、被告の特性が発現する条件が厳しくて、普通に生活しているだけでは、発現しない可能性もありますよね。
2)定期的なメンタル面の点検を行う。
自分や周囲が気付かない、自分の特性やメンタルの問題をなんとか抽出しないと、事件を防ぐ事ができないので、ここは定期健康診断にメンタルの健診も含める。メンタルの問題では、10代後半に発症したりする物もあるようですが、生まれつきの物であれば、幼少期からその特性は強弱は別にして現れていると思うわけで、小学校、中学校なら義務教育で通学している可能性が高いですから、この期間でもメンタルの健診を行う事で問題の芽を早い時期に見つける事ができるかもしれません。
問題を発見したとして、それをどう扱うのが正しいのか?と言う別の問題も出てきますけどね。
ただ、今でもこの手の健診と言うか判断はある程度されていて、支援学級や特別支援学校などへの勧めと言うのはあると思います。
(障害とメンタルの問題はちょっと違いますけどね)
問題は「ボーダー」上の子の判定や扱いは難しいかもしれないですね。
被告の小中時代はどうだったのだろう?中学時代から「物忘れが多かった」と言う情報はあるけど、これだけでは、判断できないと思うな。
他には暴力的だったと言う一部報道があるけど、仮にそうだったとしても、それだけでも判断は難しいような気がしますね。
結局のところ、基本的なスクリーニングでヒットしないと、そもそも、治療もできないわけですよね。
そうすると、一般論としては、「変わった人」とは距離を置こうと言う、ありふれた対策しかないと言う事になりますね。
学生なら付き合う相手を選べるだろうけど、社会人として組織や地域の中だと、嫌でも付き合う人はいるから、「細心の注意をしましょう」としか言えないかもしれませんね。
とにかく、「いつどこで誰に襲われるか分からない」世の中です。
注意するに越した事はありませんね。
参考リンク
白金高輪駅硫酸事件その7(鑑定留置まで)
| 固定リンク
コメント